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[コメント] 山女(2022/日=米)

冒頭は出産シーン。天井からぶら下げられた縄を持ち、いきむ女性。表で待つのは夫−山中崇。その向こうの畦道には、山田杏奈がしゃがんで待つ。産声。夫は小屋に入り、産声を停止させる。布でくるんだ物を山田に渡す。
ゑぎ

 山田は受け取った物を背負い籠に入れ、歩いていく。田んぼの米を見て嘆く村人−川瀬陽太が挿入される。山中と川瀬はラストでもコンビのような役割を担う。物を川に流す山田。その向こうの山には雲がかかっている。早池峰(はやちね)山。

 この冒頭からヌケの悪い画面だ。少し陽が差した逆光のショットでも、全編かなり靄ったルックで統一されている。徐々に、陽の光が足りないので米が不作、冷害なのだと分かってくる。ラストに強烈な太陽光を見ることができるかどうかも本作のテーマ(ずっと気になりながら見る事柄)になるだろう。

 山田は父親−永瀬正敏と目の不自由な弟と3人暮らし。永瀬の曽祖父の咎(火つけ)が今でもたたっており(田畑は、取り上げられたまゝ)、汚れ仕事(遺体の埋葬など)と草鞋作りで食べているようだ。弟も良い役割りを担うが、父親の永瀬がよく機能する。特に前半、夜、寝ている時に、大声を立てて起きたり、飯を食いながら、唐突に床を叩いたり、といった行動で観客をビビらせる。あと、山田の幼馴染なのだろう、ずっと気をかけてくれる青年の役で二ノ宮隆太郎が登場する。彼もプロットをドライブする良い役だ。

 経緯は割愛するが、後半、山田が神隠しにあってから(山へ入ってから)が、本作の見せどころになる。白い髪の山男−森山未來の造型もいいし、白いリンドウを小川(村を流れる川の源流だろう)へ流すショットもいい。こゝは本作の白眉だと私は思った。流れるリンドウを右へパンして追う、左端に山田も映っているシネスコの画角を活かしたショットだ。

 ただし、深い山の中での山田の描き方は生ぬるいという感覚も持つ、もっとボロボロになるような厳しさがあっても良かった。それと、山の奥、例えば山神様の祠(ほこら)からその奥の、山男のねぐらまでの距離と時間の描写は性急に感じられる。二ノ宮とマタギたちが山に入り、山女に会うまでの場面についても、もっとゆったり時間を使って描けば良かったのではないか。

 尚、村人たちの描き方については、村長の品川徹にしても、でんでんにしても登場すると圧倒される迫力がある。特に、でんでんの顔演技はことごとく桁違いの圧力を画面に与えていると感じられた。また、このような題材で、回想・フラシュバックがほゞ無いのも画面のテンションを維持することに寄与しているだろう。フラッシュバックと云えるのは、唯一、終盤の山田が栗毛(芦毛?)の馬のたてがみを見て、山男−森山をそこに見るショットだけかと思う。そして、主人公の山田杏奈についても、笑顔なし(一回ぐらい少し頬が緩むショットはある)、というディレクションの徹底は、本作の厳しさにくみしている。

(評価:★3)

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