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[コメント] 小さき麦の花(2022/中国)

ロバの小屋の窓。この映画も窓の映画だ。最初、四角い穴の真俯瞰かと思ったが、窓から土が捨てられ、ロバが顔を出して、実はようやく窓と認識する。
ゑぎ

 オフで、早くしろとガミガミ云う女性の声。小屋から右へ横移動すると、男が出てくる。男の名前はヨウティエ。小屋の外は雪が降っている。驚きのある素晴らしいオープニングショットだと思う。

 オフでガミガミ云っていた女性は義姉か。家の中での食事シーン。ヨウティエのお見合い?相手の女性の名前はクイイン。ヨウティエの兄は、ロバを叱りに外へ出る。クイインは、トイレに行くよう云われる。ヨウティエは、ロバに餌をやる。次に写真館で写真撮影。下を向いているクイイン。この写真も終盤でちゃんと使われるのだ。次のシーンでは、二人はもう一緒に暮らしている。夜中、ロバに餌をやるヨウティエ。クイインは漏らしたのか、寝床に染み。この序盤は、ずっと科白無しだ。こゝでも寝間の窓が目に留まる。クイインは、左手が震えている。足も悪く、詳しくは分からないが、麻痺しているのだろう、漏らしても自分で気づかないのだ。

 こゝから、ヨウティエとクイインとロバとの慎ましい生活がずっと描かれるが、二人とも基本的にとても優しい人柄で、特に夫が妻を大切にする様子がたまらなく美しく、また切なく感じられる。ヨウティエが声を荒げたのは、収穫した麦の束を、荷車に上げられないクイインを怒鳴る場面、その一度だけだが、その後のシーンで、邦題の「麦の花」を作るシーンが出て来る。

 そんな中でも窓の映画として、地主の屋敷や献血車の窓、新築マンションの窓なども印象的に使われる。一方、画面は光への志向性も強く感じられる。夫の帰りが遅く、クイインが夜の道で待っている際の鉄道ランタンのような懐中灯。その揺れる光。あるいは、ヒヨコのための段ボール箱に沢山開けた穴から漏れ出るオレンジ色の電球の灯り。暴風雨の中、土で作った日干しレンガを守るシーンのヘッドライトの光。

 また、本作は一人も悪い奴が出てこない映画だと私は思うが、ちょっと微妙な人物は何人かいて、地主の息子の位置づけもそうだろう。しかし、これが良いアクセントになっていると思う。彼がBMWに乗っていることを、村人たちが何度も揶揄するのがいい。あるいは、クイインのお尻を隠すためのコートを買ってくれる(しかも2回)というのも良いところだし、エンディングを締めるのも彼なのだ。

 そして、農業政策の一環としての空き家の取り壊しと離農、それに相反するような主人公たちの家造りが描かれる部分の対比も感慨深い。破壊と建設が同時に進行する映画。しかも帰結はとても厳しい。何が厳しいって、ロバでさえ、ちゃんと映されない(ちょっとだけ映される)。

(評価:★4)

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