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[コメント] 少女は卒業しない(2023/日)

町の俯瞰。大きな川がある。山の上から撮ったような固定ショット。続いて女子高生の登校風景。男女ともブレザーの制服。私服は認められていないよう。山梨県立島田高校。
ゑぎ

 本作の全体構成としては、四つの挿話のクロスカッティングで、卒業式前日と当日の二日間というか、前日の朝から当日の夕方までの一日半が描かれる。季節的に、ちょっと桜は早いと思う。

 さて、四つの挿話とは、作田−中井友望と図書室の先生−藤原季節。卒業生代表で答辞を読む山城−河合優実と駿(しゅん)−窪塚愛流。彼氏の寺田−宇佐卓真と12月からギクシャクしている後藤−小野莉奈。そして、軽音部の部長の神田−小宮山莉渚と部員の森崎−佐藤緋美との話。

 この中で、最初に寄りのショットが与えられているのは作田−中井なので、きっとこの人は重要な位置づけなんだろうなと推測する。それは間違いでは無かったが、しかし、やはり、山城−河合だけが特別な扱いと云っていいだろう。というのも、彼女だけが、フラッシュバックを許されている。また、前日に先生から答辞の書き直しを頼まれたことで、もう一度校内を見て帰ると云うのだが、こゝで、校内風景のスローモーションが入る。これは河合のミタメじゃないかと私は思ったが(明確に示されてはいない)、この演出でも、彼女が特権的キャラだと感じる。ただ、河合が階段を駈け降りるスローモーション(これもフラッシュバック)が、2回繰り返されるのはクドいと思う。

 また、四つの挿話がクロスする進行はとても上手くいっていて、ほんの少ししかオーバーラップしないが、その重なり加減がいい。例えば、作田−中井が、自分も変わりたいと思ったのは、山城−河合が答辞を読むことに影響された、という発言をするのなんて絶妙だし、調理実習室で唄われる駿の鼻歌のクダリだとかも同様だ。

 あと、後藤−小野と友達が、自転車で花火を買いに行くシーンの坂の捉え方や、神田−小宮山と森崎−佐藤が自転車二人乗りで公園の横の道を行く横移動のロングショットも良いショットで、自転車を絡めた画面は矢張り映画を走らせるのだ。ただし、全体、小野のパートはお話としてはありきたりか。

 また、卒業式当日になってから、手持ちカメラのショットが増える。それは、プロットを揺さぶる、いくつかの動的な事件が起こるからだろう。例えば、後藤−小野と寺田−宇佐の口喧嘩。あるいは、卒業式後の学内コンサートで森崎たちのバンド(ヘブンズドア)が使うはずだった衣装や楽器が無くなっている件。この軽音のコンサートのパートで、森崎のハードルをどんどん上げていくのは大丈夫だろうか?と思わせられるのだが、まずは、この期待感というか、スリリングさ自体がとても良い措置なのだ。そして、本番の森崎の唄はそんなに上手くはないけれど、充分に心を打つ唄声だと私は感じた。

 尚、主要な4人の女子たちの家族は皆隠蔽されていて、登場しない。というか、親が明確に示されるのは、駿の母親だけなのだ。ついでに書くと、自宅が映るのは後藤−小野だけだ(しかも自分の部屋のみ)。この構成も、不要なノイズが持ち込まれない、ストレートな力強さに奏功していると思う。

(評価:★3)

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