[コメント] 君は放課後インソムニア(2023/日)
高校の教室では授業中に睡魔に襲われる奥平の場面があり、続いて、生徒たちの掃除風景。窓が多い校舎の造型がいい。眠そうな奥平が、女子3人に脚立を取りに行け、と命令されるシーンが窓越しなのも良い画面。脚立は使われていない天文台にある。そして、森七菜の登場は、天文台の内部にある大きな箱の中で、横臥したショットだ。
実は、奥平と森のインソムニア感、特に不眠の辛さの描写は、ほとんどこの序盤のみだ。天文台で誰にも知られず、ひと時の眠りを得たい、というモチベーションも反故にされ、以降、主に天文部を復活させるための活動(同級生や地域住民も巻き込んだ星空観望会というイベントや、能登への写真撮影旅行)と、奥平と森の関係の変化が描かれる。ただし、夜眠れないので、夜コミュニケートする、ということは一貫して描かれている。
本作の良いと思った点をあげると、まずは2つの所作の反復がある。一つは手をパーにして、タッチする所作の演出が2回。これは奥平と森、及び奥平と森の姉−工藤遥の間で行われる。もう一つは矢張り2回ある心臓の鼓動を聞くシーンで、これはいずれも、川(御祓川)の側のバス停の場面。奥平と森、それぞれに1回ずつ。特に森七菜が奥平の頭を胸に抱え、心臓の音を聞かせるシーンは、プロット展開の契機となる重要な部分だろう。森は序盤から奥平に対するスキスキ光線が溢れているように思えたが、奥平が森を好きになったのは、この場面あたりからだと思える。
あと、御祓川と橋のロケーションも良いが、何と云っても、能登の真脇遺跡の景観はスペクタクルだ。この場面があるのは本作のストロングポイントだろう。この景色を背景に天の川などの星空を見せるショットは合成見え見えで唖然としたけれど、森七菜の後景の星を回転させるショットが来て、これは仕方がないかと納得した。
森七菜は少々アホっぽい健気で明るいキャラを、相変わらずよく動いて造型していて安定した仕事ぶり。奥平の訥々とした喋りも自然でいい。全体、能登の場面あたりまでは、素直な素直な映画と感じられ、好感を持って見ていたのだ。しかし、森と奥平が能登から帰宅して以降、森の母親−MEGUMIと奥平の父親−萩原聖人の描写に納得性が無くなってしまう。これには困ってしまった。特に萩原が、いつも通りの変な人になる。これら終盤の脇役の破綻が惜しいところだ。ただし、森七菜の帰結を見せないで、エンドロールに突入する構成はいいと思う。エンドロール後のオマケは、ちょっと恥ずかしいが。
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