[コメント] 譽れの一番乗(1926/米)
邦題の方は、ネタバレタイトルだと思うけれど、これも古風な表現だが、名作っぽいタイトルで悪くないと思う。映画の出来栄えも、タイトルに負けない良い出来だ。
前半はアイルランドが舞台。こゝはインタータイトル(挿入字幕)がアイルランドらしい石の城の風景なんかのカット絵に文字が書かれたもので、とてもお洒落だ。主要人物はオハラ卿−ルイス・ペインの邸宅の人々。まずは、厩舎などで働く使用人として、お馴染みのJ・ファレル・マクドナルドと、若きレスリー・フェントンがいる。フェントンがハンサムで吃驚した(村上弘明と要潤と東出昌大を合わせたようなルックスと思った)。そして、オハラ卿の娘−ジャネット・ゲイナーは、横乗りで乗馬して石垣をジャンプする、という登場シーンが与えられている(勿論、スタントダブルの仕事だと思うが)。馬はフェントンが調教している牝馬のダークロザリーン号。本作はフェントンとゲイナーの恋愛譚だが、タイトルを表しているのは、ロザリーン号とフェントンの物語だ。
さて、設定や梗概に関わることは上記ぐらいにとどめておいて、印象深い細部について記述したい。まずは、この映画、フォード・ファンなら誰もが指摘したくなるであろう後年の『静かなる男』を想起させるアイルランドの風景がある。オープニングすぐの、二人の少年が羊の群れの前に立っているフルショットで、既に、あゝ『静かなる男』の世界だと私なんかは感じ入ったが、やはり、米国へ向かうフェントンとゲイナーとの別れの場面と、エピローグでも出て来る、手前に石垣、その後方には横に張り出した巨木の枝、そのまた後景には羊の群れ、というショットは、もう『静かなる男』のジョン・ウェインがモーリン・オハラに一目惚れする場面とそっくりの世界なのだ。あるいは、オハラ卿にビスケットを渡す貧しい少女が出て来るのだが、この娘がとても美形の(バーグマンの子供時代かと思うような)少女で感激してしまった(見終わって名前を調べようとしたが、実は叶わなかった)。あと、動物では、馬以外にも、オハラ卿の側にまとわりつく、大きな犬(アイリッシュウルフハウンド)や、J・ファレル・マクドナルドが可愛がっている家鴨(鵞鳥?)も上手く使われている。
また、米国の場面では、騎手は白人ばかりだが、彼らには黒人の執事を雇っている者がいて、騎手と執事と一緒になって悪戯をする、という場面が二度ほどある。中でよく目立つ綺麗に正装した執事がおり、これが後のステピン・フェチットを彷彿とさせるようなトボケた描かれ方をしているのが面白かった。彼には、病院のシーンでスローモーションのフルショットが与えられているのにも驚いた。これも、フォードはやるけどホークスなら絶対にやらない、という演出だろう。もう一つ、フォードって、こういうこともやるんだ、と思ったのは、ゲイナーがフェントンから送られて来た手紙を読むショットで、彼女は巨木の露出した根に座っているのだが、足元からのティルトアップで見せるのだ。
そして、クライマックスの「シャムロック障害レース」について。このレースは、いわゆる競馬場ではなく、原野を舞台としてコースが設定されており、丘や草原に障害が設られている。障害も、生垣や竹柵だけでなく、土嚢を積んだような物や、馬場柵や石垣まである。最後は、大きな水濠障害で、落馬や転倒が続出する。この競馬シーンもなかなか良く撮られているが、2年後の『血涙の志士』の同様シーンの方が、よりスペクタクルな画面が実現されていると思う。フォードとシュナイダーマンが、本作の経験を活かしながら、『血涙の志士』の大がかりな競馬シーンを造型したということがようく分かる。またそれは、『静かなる男』にも繋がるのだ。
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