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[コメント] 居酒屋(1956/仏=伊)

居酒屋で一杯引っ掛けているような心地よいほろ苦さ。なにが酒で、なにが肴かは別として。
G31

 人間関係が巧みに集約されて、一つの完結した世界を描いている感がありました。そして人間描写に容赦がない。だからこそクライマックスで圧倒的な幸福感に包まれるのでしょう。型通りなドラマ作法でありながら、映画的幸福感をきっちり提供してくれるあたりは、確かに『カリフォルニア・ドールズ』もそうですね。

 <幸福感>とは違いますが、人物設計とその配置に特定の世界観が集約/再現されているのを感じた、という点では、土曜日に観たルネ・クレマン『居酒屋』がそうでした。これもずいぶん昔に観たときは、アクションもないし、これといった出来事も起きないので、退屈に感じた記憶しかないのですけど、たまたまある映画特集のラインナップに載ってたのを目にし、なんか気になって見に行くことにしたのです。いや、私ごときが今更言うまでもないでしょうが、まごうかたなき名作でした。

 厳密に言うと、人間描写にはむしろ甘っちょろさを感じたのですね。エンディングを含め、作風はまったくハッピーとは言えません。主人公は健気で、頑張っているにもかかわらず、ある種の頑なさと愚かさがあって、だんだん酷な状況に陥っていきます。だがどこかで、そんな自分を自分で憐れんでいる。その主人公の甘い自己憐憫を、映画は突き放して描かずに、むしろ寄り添ってやっているように思えました。

 でもこの甘っちょろさが、ちょうど居心地がいいんですよ。映画の中では、タイトルになっている「居酒屋」はさほど登場しないのですけど、ちょうど一人で一杯引っ掛けてほろ酔い気分になっているような居心地の良さ、という感じなんです。ほろ苦い思いに浸ったりしながらね。どっちが酒で、どっちが肴かわかりませんけれど。

 こういう居心地の良さが、私が映画に求めているものの確実に一つなのだなと、あらためて認識した次第です。

90/100(10/07/25記)

(評価:★5)

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