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[コメント] ランジュ氏の犯罪(1936/仏)

国境に近い町はずれの料理店兼ホテル「国境」。中の客たち。殺人事件のニュースの話をしている。表に自動車が来る。カップルが店に入り部屋へ。店の息子は「殺人犯だ、警察に連絡しよう」を繰り返す。
ゑぎ

 店の息子の声が聞こえたのか、女性−ヴァランティーヌが部屋から出てきて、連れの男−ランジュ氏の話をし始める、というかたちで回想に入る。

 中庭のあるアパート。1階は洗濯屋、2階は出版社が入っている。また、1階には管理人家族の住居、2階に主人公のランジュ氏の部屋がある。ヴァランティーヌは洗濯屋のマダム。各部屋を回って洗濯物を届ける。ランジュ氏は、小説家で、「アリゾナジム」という活劇シリーズを書いている。壁には米国の地図が貼られてあり、アリゾナ辺りにペンで丸しているのが分かる。

 もう少し人物の紹介を続けると、管理人の息子は自転車好きのシャルル。彼と洗濯屋のエステルは恋人のようだ。シャルルの部屋の窓外に、勝手に広告看板が設置され、光が入らないと怒っている。登場間もなく彼は、自動車事故で足の骨を折る。また、出版社の社長バタラも重要人物で、ひどい男。秘書のエディットが愛人だが、ヴァランティーヌにも馴れ馴れしい。彼女は「アンタなんかと、どうして寝たのかと思う」と云う。さらに、バタラはエステルにも手を出す(ほとんどレイプだと思う)。

 しかし、バタラは借金で追い詰められ、失踪する。エディットだけが駅へ見送りに行くが、バタラは彼女から電車賃をもらいたかっただけだろう。健気なエディットがホームで泣いていると、すかさず知らない男が声をかける(ホームで泣いている女は落ちやすいと先に云わせている)、という、こういった、あっけらかんとした倫理観はルノワールらしいと思う。そして、バタラの乗った列車は事故に会い、彼も死んだと報道されるのだ。ただし、事故の前に、列車の中でバタラと神父の会話シーンがあり、その制服だとどこでも尊敬されていいですね、みたいな科白があるので、この後の展開は誰でも予想ができてしまう。

 さて、本作の画面造型で私がもっとも素晴らしいと感じた部分は、何と云ってもアパートの中庭と建物の窓を関連させて見せるショットだ。例えば、中庭側の1階から、クレーンで上昇移動し、2階の窓を右から左へと見せていき、今度は1階へ下降移動する、といったカメラの動きが2回ある。あるいは、シャルルの窓外の広告が外される場面では、エステルが洗濯屋の窓から担ぎ出され、中庭を通ってシャルルの部屋の窓へやって来るのを屋内から縦構図で見せる。これには『ピクニック』でカフェの窓を開けると庭でブランコをする女性が見えるショットを思い出す。

 また、回想場面の終わりには、予想通りバタラが神父になって出現し、タイトルの事件の場面になるのだが、その直前の、出版社の皆で行われる宴会シーンのルノワールらしい幸福な時間の演出も特筆すべきだろう。回想開けに、真実を話したヴァランティーヌが「国境」の主人や客たちに、あとは好きにして、と任せてしまうのもいい。

(評価:★4)

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