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[コメント] 最悪な子どもたち(2022/仏)

オーディションシーンで、ワザとらしい小さなズームイン、ズームアウトを繰り返すのは、多分この部分だけで、以降はこんな愚かしいことはしないだろうと予想したが、予想通り、以降は全く無し。
ゑぎ

 本作は映画撮影についての映画だ。オーディションの対象、及び撮影される映画の主要人物は、リリ、ライアン、ジェシー、マイリス。リリとライアンは姉弟でリリは妊娠している、ジェシーはリリの恋人、マイリスはリリとライアンの家族、という設定らしい。映画のタイトルは「北風に逆らえば」。

 4人の主要人物は皆、素人で、ピカソ地区と呼ばれる貧困層の多い地域のティーン・エイジャーだ。実際のリリは、皆からビッチと呼ばれるが、でもバージンだと自分では云う(学校のトイレで口淫をしたことはあるらしい)。また、弟を癌で亡くしている。10歳ぐらいのライアンは、姉−メロディと一緒に暮らしている、という点で、撮影中の映画の設定と実生活での共通項がある。ジェシーは最近出所したばかりのイケメン。マイリスは一人孤立した感じの少女。皆、映画的な良い面構えだが、リリとライアンの2人が尺を取って描かれるので、この2人が本作全体の主人公と云うべきだろう。あと、もう一人付け加えるなら、監督役のヨハン・ヘルデンベルグがいる。

 こういう題材なので、当然ながら、劇中で撮影に使われているカメラの視点があるのだが、実は、ほとんど冒頭のオーディションシーンと終盤の2シーンだけであり、序盤中盤はこれがない、というのも特徴だろう。例えばリリとジェシーのベッドシーンが撮影される場面でも、2人がキスし続けるアップショットなんかも含めて、映画撮影中のカメラの映像(映画中映画の画面)では無いショットと見た。これが映画中映画のショットなら、もっと構図が考慮されるはずじゃないかと感じるからだ。

 終盤の、劇中で撮影されたカメラの視点と思われる部分とは、何千羽もの鳩を飛ばす場面でのライアンとお祖母さんを撮った仰角ショット、及びラストのリリとライアンの会話シーンを指しているが、これらは、同時に、明らかな本作のハイライトシーンでもあるだろう。ちなみに、大量の鳩を飛ばす場面でのライアンの体型にも驚かされたのだが、これに関する説明が全くないのも良い措置だ(多分、夢のシーンではないか?などと想像させられる)。また、ラストのラストでストップ・モーションが使われるのは、私はストップモーション嫌いなので、感心しないし、端的に主人公の成長を表現する演出だとも感じられ、これを選択したくなる作者の心持ちも分かるけれど、説明的に過ぎるとも思う。

 とは云え、非常に隅々まで意思の行き届いた演出であることは間違いない。カンヌで『青いカフタンの仕立て屋』や『PLAN75』を抑えて、「ある視点」部門グランプリに輝いたことも理解できる。この演出家チームの映画は、今後も見続けていきたいと思わせる作品だ。

(評価:★3)

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