[コメント] 東京マダムと大阪夫人(1953/日)
ナショナルのトラックが走る。電気洗濯機の配達だ。社宅エリアには平屋の戸建てが道を挟んで何件も向かい合っているように見える。日中なので夫人たちが井戸端会議中。リーダーは丹下キヨ子で人事課長夫人だ。電気洗濯機がどの家に運ばれるのか注目の的になる。運び先は先ごろ大阪から転勤で来たばかりの水原真知子の家だった。それを知らされた水原の隣家の月丘夢路は目の色を変えるのだ。
というワケで、タイトル通り、東京日本橋の老舗傘屋が実家の月丘と、船場のこれも大きな商家が実家の水原の対抗意識がずっと描かれる映画だが、それぞれの夫、三橋達也と大坂志郎が共にアメリカ転勤者候補(一人だけ選ばれる)になったことと、水原の弟である高橋貞二をめぐる、月丘の妹−芦川いづみ、及び水原が取り入ろうとしている専務(夫人)の娘−北原三枝との三角関係が、プロットを転がすテコとなる。
私が川島演出の見どころとして、まず最初に書いておきたいのは、矢張り、この社宅の空間造型とその中での人物に出入りの演出だ。家の位置関係や道の中央にある噴水(クレジットバックに映っていた噴水)、あるいは、月丘と水原の家の裏側の庭や垣根、そして二つの家で共同で使う井戸の見せ方など。例えば、水原の留守中に高橋が登場するシーンは、月丘の見た目で、隣り合った家の路地から、通りを歩く姿で見せる。この空間の見せ方に驚かされるのだ。こゝからの人物の出入りを書くと、押し売りか?と思わせた高橋が水原の弟と分かり、家に入れ飯を食わせる月丘。月丘は電話を借りに丹下の家へ。今度は月丘の父親、坂本武の登場。家に入り、次女の芦川が来ていないか騒ぐのだが、見知らぬ男−高橋が飯を食っている。坂本と高橋の喧嘩のようなやりとりのあと、坂本が帰る際、戻って来ていた月丘は家の陰に隠れている。坂本が帰った後、今度は、芦川が登場し、番頭と結婚させられるのがイヤで飛び出してきたと分かる。こういった人物の出し入れをまるで魔法のような演出・編集で見せるのだ。
また、芦川は本作が映画デビューとのことだが、まだおぼこいが、しっかりキャラを造型している。芦川の清楚と北原の活発、という演出の対比も非常に効いているのだ。高橋は飛行機乗りで、まずは最初に北原がセスナに乗せてもらうのだが、でも降りてから喧嘩する。勝気な北原はセスナの機体を蹴る。この北原のキャラ造型も面白い。芦川がセスナ機に乗った際は、鎌倉の海水浴場の上を飛び、たまたま浜辺に居合わせた、丹下たちに双眼鏡で目撃される(双眼鏡の見た目で見せる)という展開。こゝはやり過ぎの(都合良すぎる)感もある。
最終的に、三橋や大坂のアメリカ転勤の顛末、高橋をめぐる恋の行方、月丘と水原の確執、そのいずれもが丸く収まるが、恋の行方の描き方は単純だが、ストレートで力強い。高橋が勤める飛行場の、広々とした画面の中で決着がつくのも爽快なのだ。また、月丘と水原の二人は、共同井戸と電気洗濯機2つ(中盤で月丘も購入する)をシンメトリーとした画面が上手く活用されており、ちゃんと画面造型で凝って見せるのが嬉しくなる。エピローグは高橋とよの登場だが、こゝは詳述しないでおこう。この女優のジョーカー(切り札)的存在価値がよく分かるシーンになっていて、これも面白い。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・丹下の夫の人事課長は多々良純。彼もアメリカ転勤候補者。丹下の横にいつもいる夫人は水木涼子。
・専務は奈良真養、その夫人は滝川美津枝。滝川は水原の女学校の先輩。
・水原と高橋の母親は毛利菊枝。北原の大阪見物。水原と毛利で案内するのは、御堂筋、戎橋、道頓堀、大阪城。
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