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[コメント] エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命(2023/伊=仏=独)

祈りの言葉の映画。それは2つの種類(ユダヤ教とキリスト教)の祈りの言葉だ。2つの「お祈り」は劇中何度も繰り返される。また、かくれんぼの映画でもある。
ゑぎ

 冒頭すぐに、兄弟で、かくれんぼをするシーンがあり、エドガルドは母−バルバラ・ロンキのスカートの中に隠れる。そして、エドガルドがローマへ連行された後にも、学友たちと一緒に、かくれんぼをする場面があり、このシーンのエドガルドは、教皇−パオロ・ピエロボンの上着の中に隠れる。もとより、全編通じて、「隠されたエドガルド」についての映画、という云い方もできる。

 あと、床にひざまづき、教皇の靴にキスするユダヤ人協会の代表者たちの描写が中盤にあり、後半、床にキスし、さらに舌で床に十字架を3つ描くように命じられる青年になったエドガルド−レオナルド・マルテーゼの場面がある、といったプロットの反復も上手い。このような反復で云うと、2つの洗礼のプロットが決定的に重要だろう。いずれも、洗礼を施す側の論理の押しつけ、しかもそれが善意に基づくというのが業が深い(業は仏教用語だが)。尚、これらに対して、ローマ教皇の寝所に唐突にユダヤ人たちが押し入り、教皇が無理やり割礼されるというアイロニカルな場面も良い対比になっている。いずれも(洗礼も割礼も)神との契約という儀式だ。

 さて、画面に関して云うと、当時(19世紀)の光の再現を志向したのだろう明度の低い画面造型が極めて美しい映画だ。また、ボローニャ開放の暴動場面のシンプルなモブシーン演出や、イタリア王国のローマ進軍については、ほとんど砲撃される壁のショットだけで処理されるといった図太い見せ方は、あゝベロッキオらしいなぁと思わせる。

 といったように、全編に亘って緻密に計算された良く出来た作品だ。最も亢奮させられたのは、エドガルドと父親−ファウスト・ルッソ・アレジの面会シーンが穏やかなものなのに、対して母親との面会場面では、感情が爆発し、取り乱して混乱する、といった演出かもしれない。このシーケンスに続く、深夜にベッドから抜け出して、磔刑のキリスト像と対峙するエドガルドの場面もインパクト大だ。キリスト像の手足の聖釘を抜いた後の、エドガルドとキリストとの仰角俯瞰の切り返し。私の好みで云うと、こゝがハイライト。

(評価:★4)

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