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[コメント] にわのすなば GARDEN SANDBOX(2022/日)

舞台は十函(とばこ)という名前の架空の町。この名前が象徴するように、この町というか函(はこ)の中から出られなくなった主人公(ヒロイン)−サカグチ−カワシママリノの丸二日間の話だ。
ゑぎ

 ふわふわした全体のムードは、メルヘンっぽく感じられ、『不思議の国のアリス』みたいでもあり、エンディングの厳しさなどは『皆殺しの天使』のようでもある。

 冒頭は窓外を屋内から撮ったショット。ズームアウトすると(多分トラックバックではない)、タウン誌編集長のタノさん−柴田千紘が現れる。でも、フォーカスは、窓外の道路脇のオブジェのようなもの(獅子?)に合っている。この部屋は会議室で、こゝにサカグチが入って来る。タウン誌のバイトの面接で来たのだ。2人の会話の切り返しは、途中でイマジナリーラインを超える。それは、噛み合わない二人を象徴しているのか。いや、本作全体の不思議な世界を宣言しているのか。また、この最初の場面から、道路が近いということもあり、自動車の通行音が、けっこううるさい。以降、全編、環境音が強調される。さらに、不協和音のような劇伴もジワジワと不安を掻き立てる。

 一方、本作は歩く人の映画だとも思う。タウン誌のバイトを断ったサカグチは丸二日の間、この町の何人かの人物と交流するのだが、多くの場面は、人と歩く場面なのだ。中でも、バイトに誘った友人で、タウン誌のライターをやっているキタガワ−新谷和輝、及び建築家として登場し、キタガワの高校時代の同級生と分かるヨシノ−村上由規乃との散歩のシーンがメインだと云えるだろう。これらの歩くシーンは、会話内容なども含めて、概ねホノボノしており、楽しく見ていられる。この感覚が全編の基調にも感じられる作りになっている。

 なので、心癒されるようなムードと異世界のような不思議な感覚が共存しているという点が、本作の突出した面白さだと、私には感じられる。不思議な物事は沢山出現するが、一つづつ詳述しているとキリが無いので、主なアイテムだけ列挙すると、タノから渡される古い地図。キタグチの高校の担任−遠山純生からもらうグミ。いきなりサカグチに落ちて来る布団。マスコさん−風祭ゆきの家で着せられる純白のドレス(ウェディングドレス)。ヨシノの右腕のタトゥー。鋳物工場で行われるフェスでの花火。その他、佐伯美波のスケボーやコロッケやビールなんかも怪しいのでは、と思われてくる。私のうがった見方かも知れないが、布団の持ち主、バーのママ?のアワヅ−西山真来から奢ってもらうビール、ヨシノが勧めてくるビールは、グミ以上に怪しいようにも感じられるのだ(見終わって考えると)。

 もう少しだけ、良い部分を書いておこう。本作全体の中でも、マスコさん−風祭ゆきの登場場面は、とても華やいだ楽しいシーケンスになっており(一部スリリングなシーンもあるが)、良いアクセントになっていると思う。クライマックスと云ってもいい、鋳物工場でのフェスの場面では、花火を持って走り回る男のシーンで、いきなり、遠くの道から撮ったロングショットを挿入する感覚にしびれた。これは、序盤で、サカグチとキタガワが町を歩くシーケンスでも見られた繋ぎだ。そして、この工場内でのキタガワのダンスが凄い。ダンスの激しさに驚かされるが、こゝだけ、ダイナミックなアクション繋ぎを行う。このダンスシーンがあると無いとでは、本作の充実感が全然違うと思う。ラストのバスを見せる縦構図もいい。

(評価:★4)

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