[コメント] ノベンバー(2017/ポーランド=オランダ=エストニア)
ファーストカットは川か。薄い氷が張っている水面。狼(オオカミ犬?)が川の水を飲み、雪に体をこすりつける。この狼は主人公(ヒロイン)のリーナの化身のようなものだと後の場面で分る(リーナも川の水を飲み、裸体を地面にこすりつける場面がある)。
まずはアバンタイトル、3本足?のロボットのような(というか、およそロボットにも見えないが)化け物の出現と、そのぶっとんだ描写に驚愕する。牛小屋に入り、牛を鎖で縛り、舞い上がるのだ。このアバンタイトルはリーナの夢かと思ったが、そうではなく、化け物は「クラット」と呼ばれ、農民たちと普通に共存しているというか、使役用ロボットのように扱われているのだ。また、不思議な存在はクラットだけでなく、蘇る死者、魔女、クラットに魂を入れる悪魔といったキャラクターがぞくぞくと登場する。
そんな世界の中で、リーナは同じ村のハンスに恋をしており、ハンスは、教会で見たドイツ人男爵(領主)の娘に一目惚れする、といった恋愛譚のプロットがラストまで一本芯が通っている。つまり、彼らの恋の行方がどうなるかという関心事があり、世界観は不思議でも、プロットは分かりやすい映画になっているのだ。また、全編極めて美しいモノクロ撮影の映画でもある。
瞠目するシーン、シーケンスは沢山あるが、いくつかあげておこう。まず、序盤の夜の森の墓地の場面。道の向こうから、光が見え、白い服を着た人々が歩いて来る。最初は修道士かと思ったが、これが死者たちだ。生者は死者に食事を振るまう。鶏肉を食べる死人。あるいは、死者がサウナに入ると、大きな鶏に見えるのだ。また、疫病が村へやって来るシーケンスも出色の出来だろう。疫病は、最初女性の格好をしている。男がキスするとその顔は真っ黒になる。村人たちは、ズボンを頭にかぶると、尻が二つある生き物に見えるので、疫病も取り憑かないと云う。疫病は山羊になったり豚になったりする。あと、終盤の、ハンスが作った雪だるまのクラットによる、ヴェネチアの運河の回想イメージも見事な造型だ。ボートの上の白塗りの男女。ほとんど露光オーバー気味のハイコントラストなショット。夜の場面も多い映画だが、全編に亘り、光の溢れたゴージャスな画面も 特徴なのだ。
そして、エンディングはリーナとハンスの恋の収束が明確に描かれるが、開巻と同じ水辺が重要な舞台となる。詳しくは書けないが、恋の行方だけでなく、二人の死活についても一筋縄ではいかない結末だ、ということだけは書いておこう。ただし、川の中のリーナのショットはちょっと既視感のある造型だ。ぱっと思いつくだけでも、『シェイプ・オブ・ウォーター』や『水を抱く女』なんかが想起される(もっといっぱいあると思う)。これは、少々安易な画面造型ではなかろうか。冒頭の狼がもっと絡んでも良かったと思った。
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