[コメント] 大いなる不在(2023/日)
もともとクセのある人物が認知症を患った際の態様をリアルに演じる藤竜也の名演(怪演)は圧巻。
認知症発症を契機に、それまでギリギリ保たれていたバランスが崩れていく様というのは題材としてはけっして新しくはないが、30年もの間、人生から親子関係を欠落をさせてきた森山未來が、その「大いなる不在」を埋め合わせていく過程が重ねられるところにオリジナリティがある。
父について知識も関心も無かった彼が、義母の日記、父の弟子や義母の息子による評伝、そして他ならぬ父自身の言葉によって、「不在」の間における父の生き様を想像していく。今や妄想の世界に生きる父本人の口から語られる贖罪の言葉に触れることで心に空いた穴が埋められていくのだ。
それぞれのソースから形作られる父の姿にはギャップがあり、それによって全編にサスペンスが漂うのがもう一つの妙味。散りばめられた違和感の種明かしをするようなシーンが最終盤に用意されているが、原日出子の行動の理由が腹に落ち切らない印象。中途半端に客観視点を入れるよりも、曖昧なまま主観で押し切った方がよかったかもしれない。結局、何が正しいのか、何が真実なのかなんてことは誰にも断言はできず、どこまでいっても主観によるフィクションに過ぎないのだから。
森山が舞台稽古をする冒頭とラストも印象的。冒頭では単なる劇中劇のセリフにしか聞こえなかった言葉が、ラストではこの家族の関係性を描写しているかのように思えてくる。この表現は巧い。
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