コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 箱男(2024/日)

「彼女の脚は、高台に立って見晴らした鉄道のレールなみにほっそりとしなやかだった」これが原作から引用した看護婦の脚の描写だ(新潮文庫版の26頁)。実を云うと、本作の看護婦−白本彩奈の脚線には少々失望した。
ゑぎ

 しかし、それは多分に好みの問題だろうし、あるいは私とてこのアスリートのような逞しい脚にも、全く魅力を感じないと云い切る勇気はない(どっちやねん)。

 いやそんなことよりも、映画としては、彼女に自転車ではなくキックボードを与えたということの方が重要かも知れない。何と聡明な選択だろう(原作の彼女は自転車に乗っていた)。というワケで、実を云うと、ワタクシとしては、もう全て白本彩奈について書きたいぐらいの気持ちなのだ、ということも表明しておきたい。なんと云っても、彼女の科白が全部面白いということのみならず(それは原作にかなり忠実だ)、彼女の口調、口跡が実にいいじゃないか。裸体も含めて、この人の存在は目が覚めるような清涼効果があり、ある意味本作の救いになっている。例えば、病院で治療が終わった後の永瀬正敏との会話シーン。回りこむような横移動を見せるカメラもいいが、白本の科白回しが実に艶めかしい。そして本作の最も良い場面は、中盤で浅野忠信が中心人物になってからの、白本が佐藤浩市にやられたこと(させられたこと)を再現する部分だろう(これを窓から永瀬が覗き見るというのが窃視モチーフとしてダメ押しする)。全裸で四つん這いになって尻を向ける白本。

 さて、これは云っても詮無いことだと分かっていても、多くの観客が感じるところだろうが、私も30代ぐらいの永瀬で見たかったと思う。いや、57歳の永瀬には、また違った魅力があるのも認めるが、特に終盤の全裸シーンは痛々しくて辛くなった(これはこれで、それこそ異なる興趣があると云えるかも知れないが)。また、本作のアスペクト比がシネスコサイズなのは覗き穴の形状に合わせたものであることがすぐに了解できると思うが、客観ショットにおいても、もっとシネスコを意識した画面を造型して欲しいと感じた。あと、序盤にしか登場しない、意味不明に箱男に襲いかかるワッペン乞食(という役名)の渋川清彦が面白かった。本作のアクションシーンは原作にない映画としてのストロングポイントだ。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。