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[コメント] 正体(2024/日)

冒頭近く、横浜流星の脱獄シーンにクロスカッティングで(フラッシュ・バック?フォワード?)、山田孝之と主要登場人物の聴取シーンが繋がれる。これが平板な光の横顔ショット連打で、この部分で既に悪い予感がした。
ゑぎ

 本作は、私としては久々にかなりの失望を感じた作品だ。どんな映画も悪い点(自分の好みに合わない部分)もあれば、良い点もあるし、できればいずれも感想に残したいと思っているのだが、本作の場合は、ほとんど良いことを書けない。大好きな横浜流星が頑張っている、ということぐらいだ。

 先に云っておくが、私は映画に現実レベルの倫理観とか、蓋然性(描かれていることが起こり得る確かさ)をあまり求めないので、一般的に指摘されるであろう(と私が推察する)次のような違和感に関しては、私は全く問題視していない。

・主人公(脱獄犯)が、逃亡し続けることができていること(特に川に飛び込んだ後の逃亡を担保するプロットがない等)。

・上の一部とも云えるが、主人公が思い通りの職場で職を得ていること。

・主人公の技能(文章能力、パソコンスキル、料理の腕前は養護施設で?)

松重豊が演じる警察幹部に関する陰謀論的な描き方。

・PTSDを発症している高齢者を追い詰め、それをSNSで生配信する行為。

 私が失望を感じたのは、例によってもっとテクニカルな部分だ。例をあげるとキリがないような気もするが、一応例示しないと不誠実だとも思うので、列挙します。これも冒頭近く、横浜流星の搬送シーン。スタジオに停めてある自動車を走っているように見せるショットで、車体の周りをぐるっとカメラが回ったりする。この演出って『最後まで行く』の冒頭にもあったのだが、あっちの方が上手かったと感じる。その後の、囚人服を燃やす高台の俯瞰ショットが嘘っぽい画面。

 以降、とても間が悪い(冗長に感じる)シーンが多数ある。例えば、大阪の場面での、森本慎太郎とのコンビニや部屋でのやりとり。吉岡里帆との焼き鳥屋の個室のシーン。ちなみに、このシーンの吉岡が綺麗に撮られていないこと(照明の責任が大きいと思う)。さらに云うと本作は吉岡だけでなく、山田杏奈も可愛く撮られていない。また、吉岡の父親−田中哲司の痴漢冤罪に関する部分は不要と思う。このプロットが機能していないとまでは云わないが、効果は僅少だと感じる。山中崇のサイコ演技もノイジーなだけで類型的。終盤の老人ホーム突入場面は一応クライマックスだろうが、大仰なスローモーション演出で、射殺するぐらいの展開にならないと気が収まらないと思いながら見た。この後の接見室の場面だとかもベタベタだ。

 あと、よく褒める人を見かける次の2つの演出についても書いておきたい。一つは上に書いた川に飛び込むまでのシーケンスショット。これは吉岡のマンションバルコニーから駐車場の自動車の上に飛び降りた後、道路を逃走する場面から始まるが、確かにこれは本作のチャームポイントとも思う。なのに、必要以上に人にぶつかり過ぎるから、ワザとらしくなっていると思ってしまったのだ。もう一つは、最終盤の無音処理にする演出。このシーンが始まって、もう蛇足と思ったのだが、そんな中での無音処理は、私は、上手いというよりも「逃げ」のように感じられてしまった。

 というワケで、もしかしたら、各所で覚えた小さな違和感が積算して雪だるまのように膨らんでいき、過剰に大きな失望を感じているだけなのかも知れないが、ちょっと藤井道人を見限ろうかという気になってしまいました(とか云いながら、魅力的な企画であればまた映画館に足を運ぶような気もするが)。尚、この映画をこき下ろして、見る気持ちを失せさせる目的で書いたわけではありませんので(そんな影響力が私の文章にあるとも思っていませんが)、ぜひ、沢山の方が本作を見られることを希望します。良い映画だと感じる観客も多い作品だと認識しておりますので。

(評価:★2)

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