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[コメント] 洲崎パラダイス 赤信号(1956/日)

ドキュメンタリー以上のリアリティが本作にはある。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 下町の飲み屋を舞台にした人間模様。そもそも本作は新珠三千代が初めての汚れ役に挑戦したと言う事以外にさして話題のないプログラムピクチャーで、実際公開時はさほど売れた訳では無かったらしいが、後に大きく評価されるという不思議な作品。監督自身にとっても会心の出来だったらしく、後に自分の作品の中で一番のお気に入りだと言っていた。

 今から改めて考えてみると、確かに売れた理由はいくつか思いつく。

 本作はとても画期的なことをやってのけているのだ。

 群像劇と言うにはキャラは少ないが、主人公を決めず、登場人物一人一人の行動よりも心の動きの方をしっかり捉えているために、この時代には珍しい心理劇として立派な出来になってる。

 貧しく、結婚もしてない男女がどう生きるかと言うと、その場その場で生きられるように生きる。男は肉体労働をしたり、泥棒をしたり、場合によってはヒモになったり。女は飲み屋で色気を振りかけたり、時に体を使ったり。そんな場末の生活が克明に描かれていく。そんな二人が一緒になっても未来があるわけでないので、たまたま一緒にいただけと割り切り、お互い自由にパートナーを変えたりするのだが、気がつくとやっぱり一緒にいてしまう。

 くっついて、離れて、又くっつく。他愛ない男女関係なんだが、根底になんか割り切れない人間関係みたいなものを感じさせてくれるので、見た目だけの単純な作品でないように思わせるところが本作の面白さだろう。

 そして本作で一人も名前が無いということが、身に迫るという効果も生んでいる。実際身に覚えがある訳ではないにせよ、あまりに身近にありそうなネタのため、心が騒ぐ。

(評価:★4)

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