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[コメント] ライオン・キング:ムファサ(2024/米)

本編前に「ジェームズ・アール・ジョーンズへ捧げる」と出る。バリー・ジェンキンズが監督を担当しており、見応えは充分だ。「超実写」映画らしいが、私は「超アニメ」と云うべきと思う。
ゑぎ

 シンバの子供キアラへ、老マンドリルのラフィキが語る回想の物語。キアラの祖父(シンバの父)ムファサの立志伝だ。ラフィキが語る場面にはイボイノシシのプンバァと、ミーアキャットのティモンもおり、一緒に話を聞く。このコンビのジョークや悪ふざけは面白いけれど、物語が中断されて、いちいち彼らの場面が挿入されるのは、私には鬱陶しくもある。

 長く続く日照り。小さなムファサとその父母。ミレーレという伝説の楽園(後のプライドランドか)へ向かうモチベーションが示され、待望の雨が降って来る。しかし、いきなりの鉄砲水(洪水)。これには驚かされる。何かにぶら下がる、しがみつく、水中に沈む、浮上する、引っ張り上げる。これらの運動はこの後も何度も反復される。泳げないムファサの水への恐怖。反射物(鏡面)としての水面や氷の壁。本作は「水の映画」と云うことができるだろう。雪も氷も水の結晶だ。

 カメラワークは全編に亘って実にダイナミックで、これを見る楽しみだけでも料金の価値はあると私には感じられる。例えば、大俯瞰から下降及び前進移動し、水面下に潜り、水中の様子を見せた上で浮上、上昇する、といったショットをワンカットで見せる(見せたように造型する)画面。その際、カメラレンズに水が付いたようにワザと見せるようなショットもある。これって、実写でやることはできるだろうか。水空両用ドローンで、このようなスムーズな映像を実現させるには、かなりのブレイクスルーが必要だろう。

 さて、プロット的な話になってしまうが、洪水でひとり流されたムファサを助け兄弟のように育ったタカと、その父親で群の王であるオバシが、いずれも器量度量の小さいキャラクターとして描かれる作劇は、ムファサと対比させるために仕方がないのかも知れないが、私はイマイチだと思う。例えばタカの変貌の描写は性急に過ぎるように感じる。

 また、白くて大きな敵ライオン−キロスたちの怖さはなかなかよく描かれているけれど、ただし、キロスの子供とムファサの対決場面、及びキロスが群の王オバシ(タカの父)と対決する場面がちゃんと描かれているとは云えず、これは、あまりに残虐な場面は回避している、ワザと省略している、ということだろうが、ワタクシ的には物足りなく思う。

 あと、オバシに虐げられて、雌ライオンの中で育ったムファサには、狩りの能力というか様々なことを察知する他の雄ライオンには無い繊細な能力がある、という「逆境が人を育てる」みたいな、いかにも立志伝らしい教訓の理屈の担保は、やっぱり落着きがいい。これをワザとらしくならないよう上手く描いているのがいいと思う。そして、本作で一番良いシーンは、キロスたちから逃げ、約束の地ミレーレを目指すムファサとタカが、サラビ(後のシンバの母)と出会った後、若きマンドリルのラフィキが登場し、彼らに合流する場面だろう。3頭のライオンから食ってやると云われているのに、全く泰然としているラフィキ。語り部としての誇張が入っていたとしても、これはメッチャ恰好いい。

(評価:★3)

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