[コメント] 暖簾(1958/日)
坂の途中、画面中央に2人を置いて、左端の坂下に「かごめ」をする女児らを映したショット。これが凄い感覚の構図でしびれる。頭師少年は、雁治郎が主人の昆布問屋の丁稚となり、クレジット開けすぐ森繁久彌にリレーする。森繫の登場は暖簾をくぐって顔を見せるショット。
本作は雁治郎から暖簾分けした昆布屋−森繫の一代記だ。暖簾分けの条件のように、雁治郎は行き遅れた姪を嫁として押し付ける、これが山田五十鈴。しかし森繫には丁稚時代から相思相愛だった奉公人のお松−乙羽信子がいる。乙羽が身を引くことを画面で示す「えべっさん」(十日戎)のモブシーンは序盤の一番の見どころだろう。この後すぐに山田との祝言となり、気の強い山田との初夜の場面も面白いが、森繫と山田を2人きりにする雁治郎の妻−浪花千栄子の笑い顔が忘れがたい。ちなみに、本作の乙羽も、中盤以降にも随所に顔を出し、ラストまで絡む良い役だ。
こゝからの展開をかいつまんで書くと、森繫と山田には3人の子どもができ、室戸台風での工場の損害、子供たちの出征と敗戦後の次男・孝平による店の再建、といった流れで1950年代ぐらいまで描かれるのだが、全体にかなり端折った構成に感じる。例えば、台風被害の後の厳しい状況は、浪花に支援を断られることで示されるだけで、すぐに長男の出征シーンになる。さらに戦時中らしい(空襲などの)描写はなく、焼け跡の場面が繋がれる。ちなみに、十代の孝平は頭師正明(冒頭の吾平−頭師孝雄の実兄)が演じており、敗戦後帰還した孝平は森繁の二役だ。つまり、親子(吾平と孝平)が同一画面にいるショットは二重露光で造型されるているが、概ね違和感のない処理になっている。
画面造型の特徴ということだと、冒頭から全編に亘って横長の画面を活かした左右の隅まで意識させるショットばかりだが、同時に奥行きのある縦構図のディープフォーカスもよく使われている。例えば画面手前(下)に横臥している孝平−森繫を映し、画面奥(上)に吾平−森繫と山田が小さく映っているディープフォーカスだとか。あるいは店に沢山の人がいるシーン(開店祝いの場面など)で画面手前から中央奥の人まで鮮明に見えるショットだとか。
他にも当時の大阪の風俗・科白が大変面白い映画だが、端折った構成以上に残念に感じたのは、男女の艶っぽい場面がほゞないことだ。端的に云って、本作の森繫はとても真面目なキャラクターで、全然スケベじゃない。口喧嘩をする初夜から始まった山田との関係はいつの間にか仲良くなっているし、結婚後に雁治郎の墓前で乙羽と再会し、その後も密会していたという形跡も科白にあるのだが、密会場面は完全に割愛される(再会場面ではこの展開を期待したのに)。あるいは次男・孝平の森繫と荷受組合の中村メイコの描き方も淡泊なものだろう。ま、これは極ワタクシ的な好みの問題かも知れない。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・吾平の店の番頭のような定吉は田武謙三。
・焼け跡の関東炊き屋は万代峯子。闇市で昆布を買ってくれるオヤジ−山路義人。
・乙羽は守口の鉄工所に嫁ぐ。娘は扇千景。伊丹のエアベースで働いている。
・昆布の入札シーンのライバルは寒水産業の夏目俊二。
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