この後、ビートきよしの絵づらのインパクト、菅田将暉登場シーンの過剰なソーシャルディスタンスのギャグ、居酒屋「海幸」の竹原ピストルと常連客−三宅健、山本浩司、好井まさおの唱和の反復、おもてなしハラスメントのシーケンスに続けて、海（入り江）の大俯瞰を繋ぐ呼吸。そして井上真央が菅田の前で初めてマスクを外すショット。私は本作の前半は買う。

　これが後半になってコメディとは云い難くなるのだけれど、僅かに残ったコメディパートやファンタジックな演出がかなり中途半端に感じられてしまった。例えば熊。人物なら社長の小日向文世まわりの描写。社長が飛び入り参加したリモート飲み会の演出もイヤなものだが（非現実的ということを云っているのではない）、社員の家族でもない人の葬儀に社長が秘書を連れて来る場面を見ると（これも非現実的なのは責めない）、多分、これはコメディのつもりなのだ。社長秘書−あべまみの扱いは伊丹十三の映画みたいじゃないか。

　そして芋煮会です。このシーンが良いという意見もチラホラ見かけるが、私は感心しない。もっと云えば、映画じゃなくなったと思った。つまり、演劇的だ。みんな川の中や川岸で突っ立って、科白を喋るだけでもいいのだが、カット割りでもっと運動を感じさせて欲しい。この場面に茅島みずきだけが参加していないが、彼女がチェアで寝ていることは予想出来るし、こゝの熊も余計だろう。

　さらに、終盤の井上真央の情緒についても、プロット（井上と菅田の別離）ありきのある種のご都合主義に感じられる（きつく云えばプロットの奴隷のよう）。井上の根拠薄弱にも思える心持ちに合わせたエンディング−井上は登場せず、中村と菅田とビートきよしで締められるエピローグも私には半ば白々しく思える。ただし、エピローグでも中村の鼻歌はいい。ラストの海上の大俯瞰含めて、全体に今村圭佑の撮影は美しい。