コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ファーストキス 1ST KISS(2025/日)

タイトルのダサさとタイムリープして15年前の恋人に会いに行くという地雷設定を差し引いてもいい作品です。
deenity

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







やはり目を引くところですと脚本の坂元裕二にスポットは当たりがちですが、監督は『ラストマイル』で注目された塚原あゆ子、撮影は四宮秀俊、主演には松たか子松村北斗と豪華布陣が揃っていて本気度を感じる本作。 タイトルこそ絶妙にダサいですけどね笑まあラストまで見ると意図もわからなくはないのですが、文句なしに良作でした。

とりあえず当たり障りのないところとしては、本作は恋愛映画ではあるものの、中身は結構SFモノと括ってもいいくらいのタイムリープ作品なんですよね。 離婚届までサインをしていた硯駈とカンナの2人だったが、役所に出すその日に地下鉄でホームに落ちたベビーカーを助けるために駈は命を落としてしまう。一人取り残されたカンナだったが、偶然にも2人が出会った日に戻ることができる方法を発見してしまう。そこでカンナは何度も過去に遡り、駈が死なずに済むために試行錯誤していく、という内容です。

だからタイトルからも滲み出るコテコテのラブストーリーだとしんどいな、とかも思ったのですが、結構SFとしても楽しめます。個人的に類似作品としては『恋はデ・ジャブ』とか『アバウトタイム』とか。『あなた、そこにいてくれますか』とかも近しいですかね。あと、作品のテーマとラストのあの場面から『雨の日は会えない、晴れた日はきみを思う』が浮かんだのは私だけですかね。話が逸れましたが、要は恋愛映画特有のしんどさは全然なかったですね。 というよりむしろコメディともとれるくらいいろいろとトライ&エラーを繰り返すカンナが結構コミカルで魅力的なんですよね。元々のキャラクター、というほど松たか子さんに詳しいわけではないのですが、それなりの年齢でも天真爛漫さがあって好感が持てますし、タイムリープできることを良いことに若い頃の駈にドキッとするセリフを何回も言わせるくだりとかはかわいかったですね。

ただ、本作においてはやはり松村北斗くんの演技は図抜けて素晴らしかったように思えました。 作品の展開上、主演の2人を中心に進んでいくため比重が大きいのはありますが、立ち位置によって絶妙に演じ分ける必要とかもありますし、何より声のトーンとかが素晴らしく、主演2人の替えが効かないのはもちろんですが、特に北斗くんについては圧倒的存在感だったなと思います。

絶妙な演技分け、という表現をしましたが、大きいところでいうと本作は前半パートはカンナの視点で進んでいきますが、終盤は駈に主体が移っていきます。 カンナが未来から過去に遡ってくる絶対的な存在だったのが、とうとう駈にもバレてしまうわけですね。

この手のジャンルの作品でタイムリープしていることの共有ってわりとない展開ではないのですが、あのホテルの一室でのくだりは驚きましたね。びっくりするほど長尺でネタバラシをしていきましたね。それでいて無駄なやり取りとかが多いとかではなく、スマートで素晴らしかったんですよね。

本作って坂元さんの脚本らしく言葉回しとかが巧みではあるのですが、結婚を皮肉った言い回しとして「恋は盲目というけれど、結婚は逆に解像度が上がる。見えてなかった欠点が4Kで見えてくる」なんてセリフがありました。 また、冒頭の方にあった過去パートは他人事とは思えませんでしたね。絶妙にすれ違っていく空気感。発した言葉の含み。たいした尺でもなかったのに針のむしろってぐらいに居心地が悪かったです。 欠点を指摘してるのはまだいい方だとも言っていましたね。その先は無だと。並べたペンの構図はまさに過去パートの2人の朝食のシーンそのものでしたし、そうやってセリフ的にも視覚的に見せてきたものがここに集束していくわけです。

でまあそれらをすべて通り抜けてきたカンナと全く記憶にございません状態の駈。 カンナにとっての過去で、駈にとっての未来を知らないからこそなのかもしれませんが、駈はそれらの行いに対して最低だったことを認めて詫び、その上で別の道ではなくやはり再びカンナと結ばれる道を選ぶんですよね。

これって実際必死こいて未来を変えるために奔走していたカンナからすると、何でやねん!だと思うんですが、結局運命として変わらないものは変わらないんですよね。駈の死だって変わらなければ、2人が赤い糸で結ばれるということも変わらない。 じゃあどうするかってなった時に駈が出した答えは、過程を変えること。

結局その先がどうなるかってわかっていても彼は赤ちゃんを助けるためにホームに降りるような人なんですよね。これって見え方の違いの話であって、自分を妻という視点に置けば家族を置いていくの?になるかもしれませんが、世間からすればそれは英雄であって。 カンナがつけっぱなしにした電気を駈はいちいち消して回るんですよね。カンナが話したことに対して駈はいちいち結論を出そうとするんですよね。これってめちゃくちゃ申し訳ないことに、何でいかんの?って駈と同じことを思ってしまった自分がいて。 わかりますよ。カンナの行動に対していちいち揚げ足を取るような感じできっと電気を消してたんですよね。カンナの聞いてほしいって思いをさっと切り上げてしまうような聞くスタンスがそういうことじゃなくて、って思ったんですよね。でもきっと駈って元々そういう人で、もちろん駈側にも蓄積された鬱憤がそういう行動に嫌味がこもっていったんだと思うのですが、カンナはカンナでそういうフィルターで4Kとして見てるんじゃないんですかね。 切り取り方を変えたら、カンナができなかったフォローをさっとやってくれた優しさなのかもしれない。結論を言えるのだって、話をちゃんと聞いているからなのかもしれない。 要は受け取り方として、曇ったフィルターを通して見すぎてないかって問題で、それを象徴するかのような餃子の演出は見事でしたね。3年前だってあの餃子はきっと駈が頼んだものであって、そんなこと気にもせずにラッキーと捉えることもできるけど、見方が変われば2人で一緒に食べようという駈の思いだと気づけるかもしれないわけで。

正直ゴールがどうなるかなんてわからないのが現実ではあるわけで、映画のような綺麗事のようにはならないわけですが、わからないからこそ今この瞬間の自分は変えることができて、それが本作のように良好の関係に繋がればベストですが、そうでなくてもそのために努力した自分っていうのは誇れるんじゃないかなとも思えました。 ま、とはいえ現実問題本作のような0スタートなんてのはできないわけで、メタ的な視点で関係築けるならそりゃいくらでも上手くいくのでしょうが、それこそ「無」の状態にまでなってからはそう上手くはいかんとは思いますけどね。

ただ、本作の好感が持てる点として、本来苦手な手紙のくだりですが、日常風景の羅列とかは殊に冷めてしまいがちなのですが、きっと受け取り方が変わると同じ画も愛おしくも見えるってことを象徴しているのだと感じて本作においては意図が伝わってきましたし、また、冷めたカンナは結局未来は変えれませんでしたが、自分の中の靄は晴らせたという意味では変えれたんだなとも思って、やはり脚本の巧さを感じました。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。