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[コメント] ドレミファ娘の血は騒ぐ(1985/日)

やっぱりこれは面白い。撮影の面白さ、カット繋ぎの面白さが際立っている。その面白さは近作以上じゃないか。この映画について、よく「学生映画みたい」という感想を見かけるが、確かにその感覚もわ分かるけれど、
ゑぎ

 しかし、少なくも撮影に関しては、ばりばりプロフェッショナルの仕事ですよこれは。私は『神田川淫乱戦争』のコメントでも書きましたが、瓜生敏彦は、どうして日本映画の現場を離れてしまったのだろう、と本作を見ても思う。この撮影者、大げさかも知れないが、宮川一夫レベルの撮影者に大成したかも知れない、なんて妄想をする。

 本作は、確かに序盤のセットアップ部分は鼻白むシーンの連続だが、中盤後半になるに従って、より面白いショット、演出が目白押しになる、というのも良いところだ。私が好きな場面を少しあげましょう。まずは、中盤、洞口依子−アキちゃんと加藤賢崇−ヨシオカ君のシーンで、加藤が唐突に「大学は、花ざかり〜」と唄い出すミュージカルシーンがあるが、こゝのカット割り。これを窓から伊丹十三−平山教授が見るというのも良く、伊丹がゼミ生の立原由美と自転車2人乗りになる(伊丹が荷台に腰掛ける)シーンが繋げられ、こゝに斎藤高順のメロディ(多分『秋刀魚の味』)が劇伴で流れるという趣向にはワクワクさせられた。さらに、麻生うさぎが「なんて素晴らしいの〜二人のロマンス」と唄い継ぐが、彼女のバストショットもいい。このミュージカル部分は良い造型だと思う。

 あと、自転車2人乗りはもう一度出てくる。終盤の伊丹が洞口を乗せて原っぱから廃屋みたいな洋館へ行く場面だ。こゝからラストまでの怒涛の展開、目を瞠るショットの連続に、私は最大限に亢奮させられた。座ってリンゴをかじる洞口からのトラックバック(思った以上に後退移動し、かなり広い部屋だと分からせる)。実験室へ入る際に通るエントランスホールみたいなスペースの青い画面。この映画、これは序盤から感じるが、屋内シーンは本当に綺麗な画面が多い。また、こゝでテレビモニター画面を撮ったようなカタチで加藤が「ルンバ・タンバ」を唄うシーンが挿入されるが、これも本作のこの趣向の中ではこゝが一番面白い。

 そして、土手の上を走るゼミ生たちに窓から手を振る洞口。ピクニック場面で彼女が麻生に「田舎に帰る」と云い出した後の、海岸で振り返る洞口のショット。本作の洞口の可愛らしさの要因として、何度も何度も振り返ったり、回転する所作がつけられていることがあげられるだろう(序盤で、麻生に「何しているの」と聞かれ「クルッと回る練習」と応える場面がある)。実は、海岸で振り返る洞口のショットでエンドでも良かった気がしたけれど、しかし、この後、暉峻創三−テルオカ君も加わった意味不明の戦争ごっこの各ショットは素晴らしい撮影だ。AK−47を持ち上げるゼミ生たち。クレーンの写し込みといった、あからさまなゴダールごっこは志向として幼稚かも知れないが、しかし、手製ステディカム(もどき)を使って撮影されたと聞く移動撮影のクオリティは素直に称賛に値するだろう。ラスト、川辺でブラームスの子守唄を唄うショットも圧巻。

(評価:★4)

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