[コメント] 山逢いのホテルで(2023/スイス=仏=ベルギー)
次にケーブルカーかロープウェイの中。ダムの壁を背景に下降する。次第にホテルの建物が画面に入って来る。これが青い窓が沢山ある異様な建築物で、壮観だ。まとめると、ホテルに着くまでに山を登ってダム湖まで行き、そこから下降するという大きな運動(移動)が描かれているのだが、結局最後まで、全貌がよく分からない。例えば、林間列車もケーブルカー(ロープウェイ)も、その外観は全く映らない。しかしこれがいい。映画はこれでいいのだと思う。
白いドレスの女性はクローディーヌ−ジャンヌ・バリバール。ドレスはワンピース。そして、スエードのショートブーツを履いている。本作はブーツの映画だし、バリバールの足(脚)の映画だ。例えばブーツを蹴とばす男がいるかと思えば、別の男は落ちたスカーフを拾ってくれる際にこのブーツを見る。また、その男はブーツを優しく脱がしてくれる。標高2500mでそんなブーツを履いているのは珍しいと云う科白もある。あるいは、終盤、自宅の庭で、裸足のバリバールが大股で飛ぶように歩いて歩数を数える(長さを測る)シーンの脚も指摘できる。
また、クローディーヌが息子のバティスト−ピエール=アントワーヌ・デュベと暮らす自宅の立地も、山すそのような場所で山に囲まれていて、町から自宅までの間の道に大きなシダレヤナギのような木のあるロングショットがこれまた良い画面だ。ちなみに息子のバティストが、ダイアナ妃と歌手のジョニー・ローガンの大ファンという設定で、これ(この設定)もよく機能させて見せる。特にダイアナ妃の死のニュースの扱いには胸締め付けられる。
その他の良い画面、ということだと、ポスターなどの宣材写真としても使われている、ダム湖と山を背景にミヒャエル−トーマス・サルバッハーにバックハグされながら、キスするショット。バリバールが黒いドレスでミヒャエルと会った後の、房事のシーンにおける西陽の照明。ダム施設の中の大きな丸窓から見える湖中をバックにした激しいキスのショットなどがある。そして、終盤のバリバールの表情だけを映して、対面する人物を全く映さず、バリバールの視線の演技演出によって状況を描き切ってしまうショットにも感嘆した。本作が映画監督デビュー作ということだが、今後も注目していきたい作家が一人増えた。
尚、撮影者のブノワ・デルヴォーは、ダルデンヌ兄弟の作品を手がけてきた人だが、本作はドグマ95っぽいカメラワークではなく、極めてオーソドックスかつ端正な画面だ。ダルデンヌ兄弟のルックと全く異なる。このことも、監督の意志が反映した画面造型なのだと感じさせる。
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