[コメント] エストニアの聖なるカンフーマスター(2023/エストニア=フィンランド=ラトビア=ギリシャ=日)
本作題材に合わせて、どぎつい原色の色遣い、素早いズームやパンの多用といった演出を採用しているのだ。開巻は3人の男が空中を浮遊し降りてくるシーン。皆アジア系の顔をしている。1人は赤いラジカセを持っている。BGMはブラック・ザバス。『グリーン・デスティニー』みたいに林の上を飛びながらワイヤーワークで演武。以降も武闘シーンは、ワイヤーアクションが活用される。場所は70年代のロシアと中国の国境付近。ロシアの前哨基地を3人のカンフーマスターが襲撃し殲滅する。こゝの銃撃、格闘共に、ほゞコメディ演出だ。主人公のラファエルは一人だけ生き残り、ヌンチャクをもらう。アクションシーンは甘い編集とも思うが、擬闘は全体的にそう。でも面白く見せる。こゝまでが導入部。
メイン・プロットは主人公ラファエルの、故郷へ帰還後のカンフー修行だが、こゝからもいよいよオフビートな描写の連続となる。修行は主に、偶然立ち寄った正教会を舞台とする。なぜか、教会の長老がカンフーマスターで、僧侶たちもカンフー修行をしている。しかし、こゝで主人公が厳しく鍛錬するなどという描写はなく、既に抜きん出た能力があるというのも呆気にとられる。それどころかイコン(聖像画)のキリスト像に、涙(蜂蜜の味がする涙)を流させるという奇蹟を起こすのだ。
さて、本作の原題を訳すと「見えない戦い」となるらしく、邦題に比べてずっと抽象的、精神的なタイトルだ。これは、大胆不敵な主人公と、指導役を命じられた(7年間修行しているという)イリネイとの確執を表しているということもあると思うが、唐突に池に全裸の女性−リタが飛び込むという展開の後、リタを巡って主人公とイリネイが誘惑に打ち勝とうとするプロットのことも指しているだろう。リタは悪魔か聖女か。本作は、こゝからエンジンがかかるというか、中盤は若干中だるみを感じたが、リタが教会に入ってからが面白くなる。彼女が村の婦人2人から男に優しくすることを諭される場面の画面造型なんかも絶好調と思う。
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