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[コメント] 赤坂の姉妹 夜の肌(1960/日)

前半は、国会議事堂、山岡久乃の料亭や淡島千景のバー、その隣の印刷屋や産婦人科の病院、ホテルや代議士事務所、自動車教習所、フランキー堺が女給を手配するクラブ、といった様々な場所の人物の出入りをスピード感あふれる繋ぎで見せる。
ゑぎ

 川島雄三の面目躍如たる画面造型だ。これには惚れ惚れする。例えば、代議士の伊藤雄之助が乗る車が赤坂の町を走り料亭へ向かう走行カットなんて、他に無いようなスピードの見せ方なのだ。

 ただし、ちょっと、もやもやが残る部分もいくつかある。例えば、冒頭近く、伊藤の愛人、新劇女優の久慈あさみの登場は、ホテルの部屋のベッドで、脚のアップカットから、というかなり特別感のあるものだが、こういう特別な登場シーンを与えられた人物が、ちゃんと筋に絡まない(後半消える)のが私はイヤ。あるいは、淡島が田崎潤を、貢がせたうえ捨てたと、山岡が唐突に強くなじる場面があるが、こゝも違和感が大きい。あきらかな山岡によるイジメのようなものだが、こんなことはこの世界では日常茶飯(山岡だって同じようなことをやってきた)という前提をもっと織り込んで描いていれば違っていただろう。あと、本作には、ほとんどあからさまコメディ要素はないのだけれど、菅井きん中村是好がやっている印刷屋での、印刷機の騒音を使った、聞こえないシチュエーションの演出部分は、コメディパートだろう。だが、これが、あざとくて笑えないシーンなのだ。

 主人公は淡島。タイトルにある「姉妹」は、彼女と二人の妹である新珠三千代川口知子を指す。淡島は安定の存在感。新珠は、淡島のバーを手伝っていたが、フランキー堺(淡島の以前の男)とくっついて、家を飛び出してしまうという動きのある(言葉を換えると不安定な)役。フランキーもいつもの雰囲気でいい加減な男を演じている。三女の川口知子という人は初めて意識したが、見た目は大人しく見えるが、学生運動に身を投じる芯の強い女性を好演していると思う。本作は、この川口が、田舎(信州)から上京してきた場面で始まり、彼女の横顔で終わるのだ。つまり、本作全体の中で、川口の存在が要(かなめ)のような位置づけであると思うのだが、彼女の周辺の描写(学生運動を描く部分はその一部)は、少々浮いているように思う。

 あと、淡島と新珠による、バーの座敷での姉妹喧嘩が、かなり長尺のキャットファイトシーンだ。オフ画面(画面外)でも暴れ回っているのがよく伝わる、出色の出来だろう。また、序盤から、いろいろな場所で、特に窓の向こうに、国会議事堂が見えるシーンが何度も出てくる。全部書き割りだと思うのだが、この美術装置の徹底も特記すべきだと思う。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・淡島の以前の男には、赤坂の前に新橋に店を出してくれた松村達雄と、淡島が若き日、新劇女優を目指していたときに相思相愛だった三橋達也がいる。

・淡島のバーのボーイは加藤春哉。伊藤のお抱え記者役で柳沢真一。政治家仲間では清川玉枝松本染升が目立つ。

横山道代は、山岡の料亭の女中?芸者?田崎の女で子供もある。川口の学生運動仲間に、若き露口茂蜷川幸雄。三橋達也は彼らの先生。

・ナレーションが多数入るが、加藤武がつとめている。

(評価:★3)

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