[コメント] ロイヤルホテル(2023/豪)
私は、映画が始まる前にアスペクト比がシネスコだと分かる瞬間は、常にいくばくか亢奮する(スタンダードでも同じ。ビスタだとちょっとがっかりする)。
全般的な感想を最初に記すと、本作でも画面作りの才は充分に示されていると感じた。冒頭は、クラブの喧騒のなかでダンスする主人公たち、ハンナ−ジュリア・ガーナーと、リブ−ジェシカ・ヘンウィックのシーンだが、このクラブ場面の場所と時間が開示される演出は最初の驚きだ。以降、小さな驚きが積算して、ちょっとぶっ飛んだ省略のカッティングで驚愕させるラストショットまで、テンションの落ちない画面の映画だと思う。
序盤は特にいい。2人がバスで荒野を行く大俯瞰ショット。バスが停車し発車すると、小さく2人が残っているショット。このあたりは、シネスコの画角を見事に活かした造型だ。迎えに来た自動車が、すごい砂埃をあげながらUターンする見せ方、あるいは、タイトルになっている建物の外観ショットの禍々しい見せ方もいい。
中盤以降、確かに酷いハラスメントは描かれているが、それはもっぱら言葉による暴力であり、最終盤まで主人公たちに身体的な危害が加えられる場面はなく、ラストも主人公の爆発的な暴力を期待していると、ちょっと肩透かしという感覚にもなるのだが、しかし、どのシーンも何か良くない展開になりそうなムードが横溢しており、緊張感は途切れない。雇い主のビリーーヒューゴ・ウィーヴィングのダメ男ぶり。ハンナに絡んでいくマッティ−トビー・ウォレスのいい奴なのか悪い奴なのか判然としない描き方。そして粘着質のドリー−ダニエル・ヘンシュオールの気持の悪さは特筆すべきだろう。
ま、私とて『アシスタント』の繊細な照明・撮影や、洗練された語り口を期待していたところがあるので、本作の少々荒っぽい風合いには、期待が外れたという感覚もあるけれど、『アシスタント』とはまた別の一面を見せてくれたと捉えたい。それに、この監督の若さであれば、まだまだ色々なパターンを試みておくべきだとも思います。本作の経験を活かせば、ケリー・ライカートみたいな西部劇だって撮れそうじゃないか。
(評価:)
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