[コメント] 雪夫人繪圖(1969/日)
成沢昌茂のディレクションと成島東一郎の撮影の到達レベルもかなりのものだろう。溝口作品と比べても甲乙つけ難い、いや、私の好みで云えば、本作の方が上ではないかと思える出来なのだ。まずは、溝口作品よりも、登場人物、舞台背景、プロット展開、いずれもシンプルな構成だ。そんな中で、主要人物は皆現実を超えた強烈な造型で、ラストに向かって求心力を高められている。本作も、再評価すべき傑作だと思う。
佐久間の夫を演じる山形勲の、気が小さい癖に豪放磊落を装う様。佐久間を愛しているにも関わらず、現実的な生き方しか選べない作家役の丹波哲郎。そんな二人の男の間で、どっちつかずの(いや、いずれにも抱かれる)佐久間の寡黙なエロスの造型が堪りません。あと、山形が京都から連れて来る、浜木綿子の奔放な(というか下品な)キャラ造型も上手いし面白いし感心してしまった。
さて、音の演出も非常に凝っている。まず、渡辺岳夫の劇伴が和楽器(主に鼓)とパイプオルガンを同時に鳴らした不思議な音楽だ。また、中盤以降、舞台は信州信濃のホテルに移り、オフで(画面外から)聞こえる、雪崩の音や、湖(野尻湖)の氷の割れる音が、登場人物と共に観客の焦燥感を高めるのだ。
そして、成島の撮影に関しては、本作でも全編落ち着いた気品に満ちたカットばかりだが、佐久間を蛇の化身イメージで見せるシーンでは、多分、彼女をカメラと同じ台車(移動者)に乗せて撮っており、まるで廊下を滑っているかのように見せる、凝ったカットがある。しかし、例えば、冒頭葬儀シーンでの俯瞰気味の屋内前進ドリーや、ラスト近く、雪の山道を歩く佐久間と谷隼人を横移動ドリーでとらえたカットなんかは、本当に成島らしい惚れ惚れするような構図だ。それぞれ『儀式』や『秋津温泉』を想起させた。あるいは何度も挿入される信州の山々(妙高、黒姫山、と科白で説明される)のカット、特に朝霧のカットなどは絶品だ。
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