[コメント] リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界(2023/英)
すぐに、1977年の場面になり、老いたミラーが若いインタビュアー−ジョシュ・オコナーから取材を受け、過去を回想することでプロットを繋いで行く形式になる。つまり、回想の画面化がメインプロットで、回想する現在のミラー、老けメイクのウィンスレットの場面が度々挿入される。この二重構造の必要性には疑問を感じながら見たが(ジョシュ・オコナーの野間口徹みたいな顔作りはいいけれど)、その意味は一応終盤で分かる。
回想は1938年の南仏のシーンが最初で、最後は1945年、対独戦争終結後のロンドン。中盤以降は、ほゞ戦地の場面なので、本作は、紛うことなく戦争映画と云うべきだろう。南仏の港。女性たちと写真を撮るミラー。一人はマリオン・コティヤールだ。自動車で山道を移動して、別荘みたいな場所へ。庭で数組の男女がランチをとるシーンに。中に上半身裸のノエミ・メルランがいて吃驚。ウィンスレットも唐突にブラウスを脱いで胸を曝け出す。こゝは、ミラーとパートナーになるローランド−アレキサンダー・スカルスガルドとの出会いのシーンでもある。ちなみにコティヤールは裸無しで残念。
会話シーンは、全編かっちりとした切り返しで繋ぐ。戦場の描写含めて瞠目するようなカメラワークとか、とびっきり美しい構図とかはないが、全体に素直に撮った安定した(慎みのある、と云ってもいい)画面で、緊張感を維持していると思う。『エターナル・サンシャイン』の撮影者の映画ということで予想していたバイアスは、いい意味で覆された感がある。
脇を固める助演者たちもいい。特に、戦場でミラーの相棒のようになるデイヴィッド・シャーマン−アンディ・サムバーグと、英国ヴォーグ誌の編集者でミラーの庇護者と云いたくなるようなオードリー−アンドレア・ライズボローの2人が丁寧に描かれている。
ただし、戦闘場面は僅少であり、ドイツ兵と関係していたフランス娘が髪を切られて坊主にされるリンチや収容所の少女が怯える場面、貨車や収容所内のおびただしい死体の画面でさえ、既に多くの映画で繰り返し描かれた既視感が否めず、私としては、心の動揺が限定的に感じた。私のように擦れていず耐性のない人であれば、全く異なる昂奮を感じるだろうとは思う。また、最初の方で書いた年老いたミラーの場面の趣向も確かに一定の趣深さはあるけれど、その驚きは大きくない。やはり、見終わった後も、二重構造にする必要性については疑問に感じる。
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