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[コメント] JOIKA 美と狂気のバレリーナ(2023/英=ニュージーランド)

これは主人公ジョイカ−タリア・ライダーの顔の映画。バレエ映画でそれってどう、と云うべきかも知れない。
ゑぎ

 もちろん、バレエダンスの映画であり、足の映画という側面も多々あるけれど、何にも増して、全編タリア・ライダーの顔に魅了され、圧倒され続ける映画だと私には感じられた。そのほとんどが不安や緊張にさいなまれた、あるいは足の苦痛をこらえた、あるいは激しく自己主張する、強く険しい表情ばかりなのだが、しかし、なんて美しいのだろうと思い続けた。ただし、一つだけ良くなかった場面をあげておくと、中盤で急にモスクワを訪れた父母に会う場面での(ワザとした)厚化粧はいただけなかった。これは実話なのかも知れないが、プロットとしてもイマイチだし、その画面は甚だ興覚めだった。ところが、この少し後の、芸術監督とつるんでいるパトロン候補と会食する場面の彼女の美しさは全編で一番と云ってよく、ちゃんとお釣りが出るぐらい取り戻したと思う。ライダーは『17歳の瞳に映る世界』の脇役時点で将来が楽しみと感じた女優なので、最近、主演作が続いており、その活躍が嬉しい。

 さて、日常生活や、練習場面はほとんど手持ち(あるいはスタビライザーみたいなもの)で撮られていて、主人公ジョイカ−ライダーの表情も相まって、バレエシーンのみならず全編が高い緊張感を維持している。特に冒頭、アカデミー初日のシーンは迫力満点だ。これは良いオープニングだと思う。それには音の使い方も大きく貢献しているだろう。練習生がトゥシューズを床にバンバン叩きつける音、ドアが開いて教師ヴォルコワ−ダイアン・クルーガーが登場し、いきなりレッスンが始まる演出、クルーガーの畳みかける掛け声の効果も大きいだろう。

 また、高い緊張を保った中においても、男子練習生の一人ニコライ−オレグ・イヴェンコとの(前半の)場面は、緩急の緩になっている。特に、ナタリア・オシポワの「白鳥」を見た帰り道でのキスシーンの演出はとても良いと思った(だから、詳述したいけど避けます)。あと、時系列は前後するが、ジョイカとニコライが屋上で会話するシーンの2人の切り返しで、軸線(イマジナリーライン)を無視した繋ぎになるのは気になった。しかし、後半になって、ジョイカがヴォルコワ−クルーガーの居所を訪ねた場面でも、最初は軸線無視の切り返しだが、クルーガーを部屋の中で移動させて、正常な切り返しに転換していったのだ。これって多分ワザとやっているのだろう。

 尚、英米におけるタイトルは、定冠詞付きの「アメリカ人」だそうだ。我が国や共同製作国でもあるニュージーランドなどでは「ジョイカ」がタイトルであり、誰がどう主張して、こういうことになっているのだろうと思う。ま、いずれにしても、主人公を指しているワケだが、「アメリカ人」の方がより全体のプロットやテーマを象徴する、ある種説明的なものと云えるだろう。そして、本作のタイトルとしてより相応しいのはどっち?と問われるならば、私は「ジョイカ」を取る。なぜなら、「ジョイカ」の方が、本作の価値を決定づけている「映画としての画面」を表していると思うからだ。つまり、最初に書いた通り、これは(私にとっては)タリア・ライダーの顔の映画なのだ。

#ボリショイ・バレエ団の芸術監督役はトマシュ・コット。一緒にいる金持ち(ジョイカのパトロン候補)はボリス・シィツ。この2人は『COLD WAR あの歌、2つの心』のコンビだ。

(評価:★3)

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