[コメント] 金子差入店(2025/日)
例えば面会室の丸山隆平は、妻の真木よう子が、毎月来ると約束したのに一月来なかったと云って怒鳴る。それに対して叫び声を上げる真木。気持ちは分かるが、私は叫ばないで気持ちを伝える映画の方が好きだ。その後のシーンでも、丸山と真木は何度か怒鳴り合うが、彼らだけじゃなく、北村匠海、根岸季衣、村川絵梨、岸谷五朗らも絶叫する。さすがに寺尾聰は叫ばない。この部分でも寺尾は救い。
力のある映画だとは思う。私とて何度か目を潤ませた(多分2度だ。一つは終盤の丸山と息子の会話場面、もう一つは岸谷との面会場面)。あるいは、主要キャストの顔作りは皆大した迫力だ。特に岸谷は鬼気迫る。この造型は特筆すべきだろう。しかし、心が昂ぶると叫ぶ人間ばかり、というのはどうだろう。勿論、これは映画なのだから、現実レベルの本当らしさを求めているワケではない。しかし、私はこれは映画のリアルでもないと感じられる。端的に云って演劇的だ。
ただし、シネスコの使い方(構図)には、ハッとさせられる画面がいくつかあった。店内で画面右に寺尾、画面左端に丸山を置いて会話させるショットだとか、自失した村川を縁側みたいなところに座らせたショットなど。撮影は悪くないと思う。また、北村登場シーンの背景(スクランブル交差点)の光が流れるようなエフェクトも、こゝだけ浮いているようにも感じるが、特別感があって目に留まる。この登場が期待させただけに、余計に面会室のシーンでの表情や、メイクで作った顔の造型は中途半端だと思ってしまったが。
また、プロットの肝は、主人公−丸山が、2つの殺人事件の容疑者−北村と岸谷に関わることになるという点にあり、これらで緊張感を引っ張るが、北村の件同様、岸谷の事件の扱いも表面的で食い足りないものだ。岸谷に絡む被害者の娘−川口真奈の描き方や、東京拘置所の刑務官たち−モロ師岡らの不正の描写も取ってつけたようだろう。さらに中途半端と云えるかも知れないが、丸山と懇意の弁護士−甲本雅裕については、逆に面白いと思った。ウソみたいな唐突感のある出現が映画的だ。あと、エンドロールの終わった後のオマケに関して、これはオマケとして付加するには重要過ぎるプロットだと私には感じられる。
#差入店という商売は最近話題の柚木麻子著「Butter」(単行本の初版は2017年)で出てきたので、私は既知でした。この小説の中で森永ビスケットがとても印象的に描かれています(バターが使われているのは「チョイス」だけ)。本作の差入店のショーケースでもよく目立っていました。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。