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[コメント] 未完成の映画(2024/シンガポール=独)

作中映画が最初に撮影中止に至ったのは内容変更(セクシャリティ問題)に応じなかったための資金枯渇。撮影再開後、二度目は疫病による強制隔離と、その後も続くゼロコロナ政策による過度な行動制限のため。検閲も検疫も“規制”は風紀と公共という金科玉条の仮面を被る。
ぽんしゅう

劇中の撮影クルーがホテルの部屋に一人づつ隔離されてからの2種類の「規制された映像」が興味深い。一つ目は各人がそれぞれの部屋から参加するリーモートミーティングの映像。お馴染みの四角形に当分割された画面。それぞれの画面に窮屈に納まっていたスタッフが、新年のカウントダウンと同時に軽快かつ滑稽なBGMにのって羽目を外しだす。ホテルという閉鎖空間のさらに個室のなかの“個人”が映像という手段で一気つながり祝祭空間が出来上がる。それは観る者(観客)に「規制された映像」が溜め込んだ(秘めた)爆発力を示唆している。

二つ目は外出禁止のホテルの窓から撮影されたスマホ映像。近年、演出として商業映画にも多用されるようになったこれもお馴染みの縦長の映像だ。本作の映像はコロナ禍当時、実際に市民たちが撮影した映像だそうだ。そのスマホの縦長映像が横長のスクリーンの中央の位置に天地いぱいに映し出される。左右に残された巨大な暗黒部分が世界(世間)から切り離された個人を暗示し、さらにその「規制された映像」に映し出される“情景”や“出来事”が人々の恐怖や悲しみを示唆して切なくも秀逸な演出だった。

そしてエンドロールに流れる曲の歌詞が容赦なく「規制する権力」を批判する。ここまで言って大丈夫なのだろうかと思ったら、やはり本作は中国ではなくシンガポール/ドイツ映画だった。これが中国を冠さないロウ・イエの初作品なのだ。

(評価:★4)

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