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[コメント] オステンデ(2011/アルゼンチン)

ラウラ・シタレラの長編監督デビュー作。タイトルはアルゼンチンに実在する町の名前。海(大西洋)沿いのリゾート地だ。シーズンオフのこの町に数日間滞在する女性−緑色のリュックを持ったラウラ−ラウラ・パレーデスの滞在記。
ゑぎ

 これがデビュー作とは、とても思えないような狡猾な映画作りが行われていると思う反面、矢張り、少し幼さというか未成熟さを感じさせる部分もある。しかし、いずれにしても、実に面白い。好みということで云えば、後年の『トレンケ・ラウケン』よりも好きだ。

 例えば、エピローグ、浜辺のロングショットの長回し。これは多くの観客がアザトイと感じるところだろう。でもその演出力はよく分かるし、これが無いとそもそも本作が成り立たない、という類いのシーンだ。あるいは、カフェ(?)の店員が話す映画のアイデアと、ラウラが彼氏に話す、謎についての考察という2つのモノローグ(及び、頭なめ切り返しのカッティング)もワザとらしいシーン造型じゃないか。他にも、ラウラがせっかくビキニになったのにロングショットの背中しか映さないし、風が強くて寒くなったのか、元々着ていた赤いタンクトップを再び着て、さらに長袖のパーカーまで着込む、なんて場面は、スケベな観客の期待をワザと裏切るイケズな演出だろう。

 最も上手いなぁと感嘆した部分を書いておくと、まずは、ホテルの食堂のロングショットで、画面左端にラウラがいてコーヒーを飲んでいるところから始まるシーケンスだ。黒い服の女性が入って来て、ラウラをチラッと見た後、丸めた手紙をテーブルに残して去っていく。次に初老の男性が来て、窓の外を見ながら、「奇妙だ」などと云い出すのだが、窓の外は映さず、ラウラのショットと切り返す。男性は携帯に電話がかかってきて食堂から去っていくが、ラウラが席を立とうとした瞬間、引き返して来てメモを取って行く、という一連の演出の呼吸には惚れ惚れした。

 あるいは、プールサイドで本を読んでいたラウラが、木立のところで初老の男性とオレンジ色の服を着た女性が喧嘩しているのを見た後、画面奥へ去って行ったこの男女を尾行する場面。こゝのフォーカスアウトした画面が絵画のような美しさだ。ラウラの携帯の着信音が唐突に鳴る(「サスピシャス・マインド」!)。この着信音の使い方も面白い。以降も、フォーカスの演出(ピント送り含めた)が頻出するのは、少々クドイと思わせるが、ホテルの向かい(別棟?)の部屋の灯りが明滅していると思ったら、初老の男が窓に出てくる見せ方も怖くていい。

(評価:★4)

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