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[コメント] 浪人街(1957/日)

近衛十四郎登場の酒場。この酒場が度々舞台となるが、石段のある土間の風情がいい。酒場の奥に酒樽が並んでおり、客が自分で升に注ぐシステムになっている。また、こゝでの近衛と河津清三郎のやりとりが良く演出されている。
ゑぎ

 二人が表に出て、初めに剣を交えるシーンには驚く。私が不勉強で知らないだけかも知れないが、これほど剣戟場面で本物の火花が散る演出は初めて見た。

 さて、本作は登場人物が多く、しかも単純なキャラクタリゼーションは少ない。それぞれ屈折していたり、途中で寝返ったりと複雑だ。マキノにしても、難しい題材(だから魅力的な題材)なのだろう、最良作とは云いがたいが、それでも、これだけさばいて見せるのは大したものだと思う。

 主人公側の男達は皆浪人で近藤の他に藤田進北上弥太郎がいる。河津は藤田の仲間だが、悪役の旗本、石黒達也の味方になったりする。石黒の弟役は、龍崎一郎で、この人も真正の悪役ではない、度量の大きい人物として描かれる。そこに女優陣として近藤のイロでスリの水原真知子。北上の妹・山鳩くるみ。そして、湯女なのか髪結いなのか、一人自由を体現し、近藤とも関係を持つ高峰三枝子が絡むのだが、高峰の役柄は不思議な位置づけだ。

 後半の、捕まえられた水原真知子が旗本屋敷で拷問されるシーン。喜々として楽しんでいる河津の造型も普通じゃない。ちょっと現代の感覚では信じがたい描写だ。こゝの龍崎と河津は相当の悪人。さらに、クライマックスの「小恋の森」のシーンでは、水原が「牛裂き」にされるという惨い扱い。しかしこゝの森と丘はいいロケーションなのだ。また、河津の過剰な見せ場も用意される。このなんともあっけらかんとした、映画的倫理観にも呆れてしまう。(いや、素敵だ。)

#近衛のことを高峰が「この女たらしが」のような科白を言った後、近藤が返す科白「うるせぇ、おだてるな!」

#河津が裏切った際の科白「表返っただけだい!」

(評価:★3)

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