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[コメント] ルノワール(2025/日=仏=シンガポール=フィリピン=インドネシア)

11歳の少女(鈴木唯)が小さな「?」を積み重ねながら夢想、空想、妄想を推進力に、ひと夏の現実時間を軽やかに闊歩する。誰もが子供時代に経験した自我をとりまく“何か(家族や社会、そして死)”との回路を開き始めるときのもどかしさを見事に可視化した傑作。
ぽんしゅう

あの年ごろの自分を思い出してみる。ヒトやモノやコトと自分の間に存在する何かに(無意識に、あるいは自覚的に)気づき始めるということが、大人になるということであったような気がする。その“存在する何か”は壁というほど強固なものではなく、透明な幕というほどの感触もなく、自分の意思では制御できない、そのときの周囲の状況や他者の都合によって変化するつかみどころのない“存在する何か”だったような気がする。今にして思えばその先にあったのは“死”という漠然とした未来だったのかもしれない。あれから膨大な歳月を重ねた今、私はそんな結論めいた安堵を自覚しつつあるような気がする。そんなことを考えた。

初めて観た早川千絵監督の作品はオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』(2018)のなかの短編『PLAN 75』でした。社会的なテーマを扱いながら捉え方が未整理でアプローチも紋切型でいまひとつな印象でした。あまりロジカルな話法は得意ではなそうなので2018年の長編版『PLAN 75』はスルーしてしまいました。早川監督は本作『ルノワール』のように心象や事象のコラージュを駆使して抽象的なテーマを語る方が断然得意なんじゃないでしょうか。次回作もぜひ観てみたくなりました。

(評価:★5)

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