[コメント] ネムルバカ(2025/日)
ちなみに、久保を主人公と書いたが、この映画の語り部のような存在であり、エピローグも彼女のパート、さらに、エンドロールは彼女一人がずっと画面に映り続けるという扱いなので、久保が主人公と云うに相応しい。しかし、私には先輩−鯨井ルカ役の平祐奈こそ、本作の精神的支柱であって真の主人公に思える。むしろ平祐奈をタイトルロールにしたいぐらいの(タイトルを「先輩」とか「ルカ」にしたいぐらいの)映画だと思う。というワケで、久保史緒里と平祐奈のダブル主演と云っていいだろう。
先輩−平の差別化については、例えば、同居人の入巣−久保との志の持ちようの差異が繰り返し描かれるし、入巣とその友人の田口−綱啓永、田口の友人の伊藤−樋口幸平と4人で浜辺へ行った場面での3人とのアイデンティティの違いの描写なんかが顕著だろう。しかし、一番重要なポイントは、序盤のライブハウスのシーンの先輩が実にカッコいい、いや、思いの外カッコいいということだ。これはポイント。こゝがカッコ良くないと、後の展開が成り立たない。そういう意味で、前半のお膳立ての演出はとても上手くいっていると思う。
また、久保と平のウダウダ会話場面はやっぱり楽しいし、演出基調として、かっちりとした切り返しが選択されているのもいい。あるいは久保がよくこなしているとも思った。しかしこれは『ベイビーわるきゅーれ』のちさと−高石あかりと、まひろ−伊澤彩織の延長線のようなものだろうという予想の範囲内ではある。私が面白いと思った他の細部だと、まずは田口−綱の車のカーナビアプリ(サービス)。次に、鯉を見守るシーンで登場する伊藤−樋口の存在感だ。4人の海辺でのシーケンスでは、導入部の流木の側でサックスを吹く男から右にパンして4人を映すショットもいいし、大俯瞰(ドローン?)ショットへの視点転換にも驚かされた。あと、久保が、バイト先(古本MAX)の同僚−ロングコートダディ・兎に連れて行ってもらう表現者のためのスペース(兼レストラン)のシーンも私は面白かった。
そして後半から終盤にかけて、平が久保に「お前が大事だよ」と云うシーン及び、久保が平にマフラーをかけてやるシーンがあり、いずれのシーンも2人の視線の演出はたまらない。しかしだからこそ、終盤の平の引っ越し、失踪周りに関しての彼女の感情をもう少し(あとワンシーン、ワンカットでもいいから)見せておいてくれれば、という感覚が残ってしまった。これがないので、コンサート場面での久保やバンドメンバーのリアクションがちょっとやり過ぎに感じられてしまったと思う。
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