[コメント] 望郷(1937/仏)
再度地図の画面からカスバの町へパンニングやティルトを重ね、通りの看板や様々な人々をゲリラ撮影っぽいショットも交えながら繋ぐ。この趣向やペペ−ジャン・ギャバンの登場ショット(手のひらの真珠からのティルト)は悪くない。しかし、やっぱり照明がいい加減に思えて仕方が無い。
というワケで、以降も屋内シーンは、ことごとく照明・撮影に違和感を覚えながら見た。カスバというロケーション−曲がりくねった細い路地や急な階段の多い、複雑な地形に密集する小さな住居や店舗といった場所−における独特の複雑な光を具現化しようとした結果なのだろうとは思うが、光源の定かでない光が人物の顔に氾濫しているし、屋内にもかかわらず、同一シーン内で、かなりルック(露光)の異なるショットが平気で繋がれていて、結果的に、まるで照明の考慮されていないアマチュア映画のような成果物になっていると思えるのだ。例えば、ペペが目をかけていた若者ピエロを嵌めた裏切者−レジスの監禁場面なんて、緊迫感のあるシーンなのだが、照明が謎過ぎて、私は光源が気になってしょうがなかった。
さて、良いと思った部分も書いておきます。まずは、ヒロイン・ギャビー−ミレーユ・バラン登場シーンのアップショットの使い方。少々べたとも思うが、力のある顔アップや手の宝石のアップのみならず、口元のエクストリームなクローズアップ。ただし、バランは美しく撮られているけれど、血の通った人間とは思えない、人形のような造型ではあるだろう(映画なのだから、それでよい、という意見もあると思う)。あと、ペペがカスバの中を歩くシーンでやっぱり階段はいい画になると感じるし、終盤のスクリーンプロセス合成を使った背景の街並みや、はたまた波の合成なんて面白いこともやっている。
そして、最も良いと思ったショットは、全くの脇キャラだと思っていた元歌手のタニヤ(かっぷくのいい女性)が、レコードをかけた後、なぜか長く映し続けられる部分だ。かなりの間を置いたあと、涙ぐみながら唄い始める。私はこの意味不明の突出感が好きだ。これは、撮影現場に訪れた奇蹟のような瞬間だと思う。それが写し撮られ、アンバランスだとしても、切り捨てられることなく採用された結果ではなかろうか。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。