[コメント] 残菊物語(1939/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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溝口健二と成瀬巳喜男は、女性表現にかけては超一流でしょうね。時代を超越してここまで女性の心理を深くえぐる作品を連発した男性作家はいないでしょう。
本作では溝口健二監督の女性に対する視線が一気に開花したことを匂わせますが、実は当時あまりヒットしなかった『浪華悲歌』や『祇園の姉妹』などで、評論家の間では彼の実力が評価されていました。そして本作で初めて花柳界を描く中で、身分の低い女性を遠い目線で追うことで、歌舞伎役者の世界を紹介すると同時に、女性の不確かさをえぐっていますね。
恐ろしいほどの表現力だと思います。
主役の花柳章太郎が演ずる情けないほど青っぽい「尾上菊之助」は、まったく自立していない男(情けない男)として描かれていて、このあたりが溝口健二監督らしいのですが、それを支えるお徳を(森赫子)は徹底してこの情けない男を支えようと努力し続けます。
当時の風情を認識するとともに、昨年(2009年)に観た『ヴィヨンの妻』を思わせる日本女性を見事に演じ切っていますね。溝口健二監督は敢えてこの主役である女性のアップを避け、望遠で二人の姿を芸術的にとらえ、しかも独特の長回し(ワンシーンワンカット)でもって緊張感の高い映像を作り上げていますね。
それにしてもこうした芸術作品が時代を超えて鑑賞できることをありがたいと思います。
当時の時代背景や、セリフ回し、仕草など、あらゆる面で今の時代との違いを感じることができますね。歌舞伎一家の物腰の柔らかさや、例え身分の低い者であっても、その会話(セリフ)の中に上品な慈しみを感じ取ることができるんですね。
第二次大戦前の映画とはいえ、色々な規制が考えられるときだったとは思いますが、溝口健二監督の頑固な長回しを体感することで、現代の平板な映画群の質の低下を憂います。
2010/01/15(自宅)
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