[コメント] 墨東綺譚(1992/日)
心に残るのはこのモダニストの後半生が高齢化社会の行く末の予見に連なる処で、ここを拡大すれば興味深いものになっただろう。そこが観たかった。
**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。
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荷風の家制度への抵抗は、思想から出たものでもあるのだろうが、家庭を持つのが厭な性向と合致したと解しているのがとてもよろしい。地味な自炊風景や終盤の野垂れ死が印象に残る。モダニストの行く末とはこうしたものなのだろうか。
映画は玉ノ井の女を描くもので、墨田ユキの切符の良さや宮崎淑子(改名していた)のコメディは愉しく、乙羽信子の色眼鏡の下は目を切られていたという件が印象に残る。玉ノ井無縁墓地の件もいい。しかしそれは荷風を介して垣間見た世界に過ぎず、新藤がたくさんものした置屋もののほうが伝わるものは大きい。上記と併せアブハチ取らずの印象が残る。
芥川のように「文学で悩んではいない」人の文学を主題とし、同衾に際して障子のシルエットで汽車を描き、接続を挿入とシンクロさせる。まあ愉しいようなどうでもいいような。戦争批判がイマイチ生半可なのも、荷風がそれに熱心ではないからではないのだろうか。だいたい何で津川雅彦なんだろうか。ベストショットはブドウで、その紫が室内で映えて出色の色彩バランスだった。
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