[コメント] 冬の旅(1985/仏)
カットを換えて、農夫が歩く横移動ショット。こゝで、溝に横たわる女性の死体を映す。これが主人公のサンドリーヌ・ボーネールだ。警察が呼ばれて、外傷などが無く、凍死だと云う。前日の祭りでワインがかけられた名残りがある、とも。
主人公の死から始まる映画。このプロローグに「彼女は海からやって来た」みたいなヴァルダ自身によるナレーションがかぶり、海から浜に向かって歩く全裸の女性の超ロングショットが繋がれる。ボーネールの役名はモナ。超ロングだが、豊満な肉体であることがわかる。こゝから、モナのヒッチハイクの旅と、行きずりの人々との交流、及び、モナとやりとりした人々へのインタビュー風モノローグで全体が構成されている。
この映画、全編、横移動ショット、レールを引いたと思しきトラッキングショットが多い。多分、場面が変わると一回はあったような気がする。邦題で分かる通り、冬の風景を中心として寒々しい被写体ばかりの映画なのだが、画面は横移動が多く、とてもゴージャスなのだ。
また、本作全体の時間軸は、多分、ある冬のワンシーズンぐらいだと思われる。その中で、スズカケノキの病気(菌)を研究するマーシャ・メリルや、その助手と妻。助手の叔母さん、叔母さんの家の家政婦ヨランド(ヨランド・モロー)、ヨランドの彼氏のポロ、ヨランドの伯父さん、といった数珠繋ぎの登場人物がおり、その全員に、モナが絡むのは、ちょっと都合が良過ぎる、というか、あまりに狭い範囲を旅していたような感覚を与えてしまい、上手くない点だろう。もっとも、こういう現実レベルでの認識が宜しくなく、本作のプロットは、現実を越えた、モナを中心とする神話的世界だと捉えた方が良いのだろう。
そして、寒い寒いと云いながらビニールハウスの中で寝たモナが、翌朝、咳をしながら食べ物を貰うために街へ行くと、いきなり何者からか、ワインをかけられる、という場面があり、こゝがメチャクチャ怖い、常軌を逸した強い造型なのだが、しかし、冒頭、ワイン祭りの話が出ていたので、すぐに合点がいく。これが、もし冒頭でワイン祭りの話がなければ、もっと怖かったと思う。これは惜しいところだ。
いずれにせよ、全編、厳しい厳しい映画だ。あの大傑作『幸福』と同様、アニエス・ヴァルダの厳しい特質がよく出た映画だと思う。あと、あっちこっち、ほとんどの場所で犬(それも大きな犬が多い)が出て来て、モナが全然怖がらない、というのもいい。
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