コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 台所太平記(1963/日)

前半は京都。後半は伊豆を舞台とする(ちなみに、いずれも犬の場面から始まる)。そういう意味では2部構成だが、人物の出入りや、主人公−森繁久彌のナレーションの区切り、ということでは、前後半それぞれ2つのパートに分けられるように思う。
ゑぎ

 尚、森繁は標準語、その妻−淡島千景は関西弁を喋る。では、以下に人物(女中・お手伝いさん)の出入りに合わせて、4つのパート別に特記したいことを書いていこう。

 パート1は、森光子乙羽信子京塚昌子。開巻は商家の前の道を歩く乙羽と京塚の横構図だが、足元が切れているニーショットでの犬の散歩シーンだ。この日は森のお見合いの日。お見合い相手は山茶花究で、のっけから山茶花が大いに笑わせてくれる。この咳きこみ演技!あるいは、京塚と出入りの呉服屋−西村晃によるゴリラダンスという見せ場もある。しかし、乙羽の酔っ払い演技からテンカン描写にいたる部分は、これはやり過ぎ。ちょっと酷い。倒れた乙羽の俯瞰と医者の若宮忠三郎、淡島、森、京塚が覗きこむ仰角の繋ぎもこれ見よがし感が強い。また、森繁が狭心症で入院した場面で、その世話をするウブな京塚が、婦長の都家かつ江に「男の子種はどこで買えるか」聞く場面も笑える。このパートの最後には、森と乙羽が共に退場するが、波止場で船に手を振るお腹の大きな乙羽と子供たちのショットが挿入されるのは、時空を軽やかに超越した驚きのある繋ぎだ。

 パート2は、京塚と淡路恵子水谷良重。まず、京塚とペンフレンド−村松達雄とのデート場面があり、松村が「予想以上の圧迫感」と云うのが可笑しい。矢張り、京塚がコメディパートとしても最も貢献している。そして、淡路は脚から登場し、もう一人の女中と物干し竿の布団にくるまって、じゃれ合う。このような形で淡路と水谷は隠蔽からの暴露という登場シーンが与えられている。しかし何と云っても、本作の淡路のサイコパス演技、感情のワケの分からなさが面白い。気持ち悪がる森繁。嫌いなものは嫌い、好きなものは好き、どうしようもないじゃないか、と云うのもいい。

 パート3は、大空真弓池内淳子団令子。こゝから伊豆を舞台とするが。犬が走るショットから始まる。このパートは、不良っぽいタクシー運転手−小沢昭一をめぐる大空と団の三角関係が中心のプロットで、池内は大空の味方をするだけの添え物的な扱いかと思っていると、案外、池内が印象をさらうという作劇だ。画面造型ということで書いておきたいのは、大空と団のキャットファイトから、大空が、死ぬと云って家を飛び出し、電車のトンネルの上での縦構図で、手前に団、奥に大空、その奥に通過する電車を映したショット。あるいは、夕陽のさす中、大きな倒木の影に小沢と大空が隠れてしまう(しかし、大空の喘ぎ声は聞こえる)ショット。そして、物干し台の池内の脚と、スカートの中のスリップを映したショットから、やはり、洗濯物の陰に隠蔽された、池内のキスの暴露。これも驚かされる演出だ(誰とのキスかは書かないでおこう)。

 パート4は、中尾ミエ。彼女の歌唱と走る列車のショットで始まる。劇中16歳と云うが、実年齢もそれぐらいだろう。若い。このパートは、大空と池内の結婚式の日でもある。同じ神社で、同時ではなく連続して式がある。こゝで小沢の母親として飯田蝶子がワンポイント投入されるが、大きな見せ場がないのは残念。中尾はゴルフ場のボーイフレンドに誘われてキャディになると云い、森繁と淡島は、神社へ向かう階段をゆっくりと上りながら、もう女中やお手伝いさんは時代遅れだと云い合う。広いゴルフ場を行く中尾のショットで、急に視野が広がるのは、時代の移り変わりを視覚的にも補強している。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。