[コメント] 異母兄弟(1957/日)
三國は、自宅、屋敷の前で、馬を曳く男−島田屯をいきなりビンタする。それも思いっ切りだ。鉄(蹄鉄)の釘が深い、直しとけ!と云ったのか。なんとも三國らしい登場シーン。序盤の三國のインパクトは凄まじい。女中奉公に上がったばかりのリエ−田中絹代(16歳の役!)を厩舎で手籠めにする。
本作のタイトルは、三國の前妻の子供(長男・次男)と、田中に産ませた子供(三男・四男)を指しており、全編に亘って田中とその子(三男・四男)は、三國及び前妻との子ら(長男・次男)から蔑まれる。前妻の子らは、田中のことをリエと呼び捨てにし、ときにメカケと云う。三國もラストまで、田中のことを女中扱いする、という映画だ。
子らは長じて長男−西田昭市、次男−近藤宏、三男−南原伸二、四男−中村賀津雄にリレーキャストする。ただし、この配役で尺を取って描かれるのは四男の中村だけであり、本作は、ほゞ田中、三國、中村、この3人の映画と云ってもいい。とは云え、前半の、子らが少年期の描写で、カルタ遊びをするリエとその子らを、次男が来て羨ましそうに見るシーンは重要だろう。長男次男の屈折した感情も描かれている。
また、女中、あるいはそれ以下の酷い扱いを受ける母親−田中が、夜な夜な子が寝静まった後、身支度をし、枕を持って三國の部屋へそっと入って行くのを三男が気付いている、というシーンを反復する部分は、現在ならもっと直截的な性描写も盛り込まれるだろうが、私は、このレベルの曖昧表現でもかなり映画としては雄弁だと感じる(田中の本当の心理は分からないが、とにかく夜伽をせねばならない状況だったのだ)。
さて、後半、南原や中村の登場後の場面となって、もう一人重要な脇役がいる。若い女中役の高千穂ひづるだ。彼女は病弱な中村を慰める役割を担うのだが、主人−三國の留守のシーンで、開放的になった彼女が「人生の並木路」「湖畔の宿」「月月火水木金金」「よさこい節」と実に4曲を立て続けに唄うシーケンスがある(さすが、宝塚出身と思わせる歌声)。この場面では、坊ちゃま好き!と中村に云い、2人は抱きあうのだ。本作の高千穂はとても可愛く撮られている。
あるいは、本作中、もっとも強烈な場面は、長男と次男の出征祝いの宴会シーケンスではないだろうか。宴が終わり、老けた三國が酔いつぶれた後、長男も次男もまだ酒を飲み続け、次男の近藤は兄(長男)に母親(実母)の話を聞きたがる。そこに女中の高千穂が酒を持ってくるのだが、長男がちょっかいを出し始め、レイプされかかるのだ。止めに来た中村が、近藤に何度も投げ飛ばされるのと、さらに田中が止めに入るのを畳みかけて見せ、実に迫力のある場面になっている。
あと、全体に画面造型も肌理細かくよく見せるが、屋内屋外問わず、俯瞰気味のショットがかなり多いと感じた。また、田中の子−三男が川に石を投げた川面の波紋に、夜、三國の部屋に向かう(階段を上る)田中をディゾルブで見せたり、老いた三國のフラッシュバックとして、長男と次男の写真の上に、子供の頃の場面をこれもディゾルブで重ねたりといった凝った見せ方もあるけれど、これらの技巧はちょっとクドイ感覚を持つ。クドイと云えば、三國の老け作りも、鬼気迫るものはあるが、クドイと思った。2人を比較しても仕方がないが、田中の抑え気味の演技の方が好みだ。ラストも、人によってフラストレーションが溜まったまゝ解消できないといった感じ方をする、曖昧な帰結かも知れないが、私には、はっきりとしたポジティブなエンディングに思える。ラストショットこそベストショットだろう。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・屋敷の婆やは飯田蝶子。冒頭は三國のブーツを脱がす係。出番少ない。
・田中を三國の女中に斡旋した男(自分で運送屋と云う)のは富田仲次郎。
・三國は冒頭は大尉。上司の連隊長は永井智雄。後半は三國が連隊長になり少将。
・屋敷のある町の地名や2カ所出て来る駅などの名前は、劇中明らかにされない。ロケ地もネット上を調べたが、これも情報が出てこない。原作では田中が身籠る場所は龍山(ソウル)。その後、山形から善通寺(香川)、さらに久居(三重)、福知山(京都)と連隊を渡り歩く。婆やの故郷は善通寺。
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