[コメント] 警察日記(1955/日)
花嫁の父?が運転手に酒を勧める。バスの前には馬車(馬と荷車)を曳く男、伊藤雄之助。祝言の夜、慰められる伊藤。オレ嫁なんかいらねえ、と云う。月夜の道。酔っぱらった伊藤が倒れる。そこに仏像を落とす男、三島謙が登場。さらに、警官の三國連太郎が伊藤を警察署へ連行する。署では、殿山泰司が小田切みきを尋問しており、森繁久彌が慎ましく画面に映っている。小田切は、生理日と云う。伊藤には、神社荒らしの容疑がかかる。小田切は伊藤の知り合いで、彼のことが好きだったと云って泣く(ちょっとこゝはワザとらしいシーン)。伊藤は唐突に「太郎どこ行った?」と云うと、太郎(馬)が荷車を曳きながら勝手に家に帰っているショットが繋がれる。といった具合で、この冒頭を見た時点では、伊藤が重要な役割なのだろうと推測する。少なくもこの後、伊藤が消えてしまうとは思えない。実は、彼は最終盤まで出てこない作劇なのだ。これは人を食っている。
序盤から終盤まで継続して挿入される、いくつかのエピソードがある。まずは、町の酒屋の次男坊だった稲葉義男が代議士、しかも通産大臣となって帰郷するということでの歓迎の準備とその当日、というイベントが中心に据えられている。警察が絡む出来事としては、モグリ周旋屋の杉村春子に売られた村娘−岩崎加根子と警官の三國とのエピソード。捨て子の二木てるみ(5歳頃)とその弟(まだ赤ちゃんの二木まこと)を森繁が世話するプロット。この三國と森繁の2つの挿話がとても肌理細かく描かれるている。他にも、万引きと無銭飲食で2度捕まる千石規子のパートもいいし、署長の三島雅夫のところへ陳情に来る2つのグループ、すなわち、左卜全と山田禅二をリーダーとする水利組合の農民たちと、林幹や富田仲次郎らの町の名士たちとの扱いの差の描き方も面白い。
多くの観客は、何と云っても、二木てるみの愛らしさと達者な演技にメロメロになる映画だと思うのだが、私とて何度も目を潤ませたけれど、しかし、終盤のジープに乗せた坪内美子と二木を執拗に切り返すカッティングは、ちょっとクドイと感じられてしまった。岩崎と三國がバスを降りて歩く土手のような道と階段の景色、あるいは、エンディングの走る汽車のロングショットなんかを筆頭に、自然描写、景観の美しさが本作の一番の良い部分だと思う。
#備忘でその他の配役等を記述します。
・警察署の警官役には、他に、十朱久雄、織田政雄、宍戸錠、深江章喜、柳瀬志郎がいる。
・二木姉弟を預かる料亭「掬水亭」の女将は沢村貞子。岩崎の母親は飯田蝶子。
・戦争が続いていると思っている東野英治郎。渋谷実『本日休診』の三國を想起する。
・伊藤の恋敵は光沢でんすけ。小田切が女給の店「八千代」に来る。「八千代」の女将は田中筆子。
・自転車に乗って玄米パンを売る青木富夫。
・山田禅二は水利組合員と町の名士の2役つとめている。橋の上で、水利組合のバスと大臣達一行が鉢合わせするシーンではどちらの切り返しにも映っている。
・クレジットにある三木のり平は発見できなかった。
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