コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 彼女と彼(1963/日)

団地の外観。ベッドの中の左幸子岡田英次。カメラが寄ると左が目を覚ます。近所のバタ屋部落で火事。
ゑぎ

 この後、2人がベッドインしているシーンは何度か出てくるが、岡田にはその気があるようには見えない。岡田は、中盤では、そろそろ子供を作ろうか、などと云うのだが、2人のこの状況はラストシーンまで続き、以後もずっとそうだろうと思わせる。

 ただし、タイトルの「彼女と彼」は、左と岡田ではない、いや岡田以上に、バタ屋部落の住人で、岡田の旧友だったイコナ−山下菊二が、タイトルの「彼」を指していると云うべきだろう。これは、イコナと飼い犬のクマと、イコナが養っている盲目の少女−花子が左と岡田の生活に浸蝕する物語だし、逆に、左や岡田を含めたバタ屋部落の周辺の人々が、イコナ達を遮断し追いやっていく映画でもある。

 画面造型の面で云うと、羽仁進土本典昭らしいドキュメンタリータッチの客観視点と共に、随所で技巧的な演出が見られる点を指摘しておきたい。例えば正面ショットでの切り返しがけっこう出てきたり、ディゾルブ繋ぎでの時間経過を使ったり。団地の部屋の前(階段の踊り場)で、イコナがずっと待っているシーンなど。あるいは、ベランダにいる左と地上のイコナのやりとりをパントマイムで見せるシーン。あるいは、高熱で寝ている花子を発見した左が、慌てて走り回る場面。一斗缶を倒してしまうショットでは、アクション繋ぎさえ見せる。

 ドキュメンタリータッチのシーンでは、団地の婦人たちが蔭でヒソヒソと囁くといった、うわさ話モチーフが複数出てくるのも羽仁進らしいと思う。『不良少年』冒頭などを想起する。また、子供たちの暴力性のモチーフも重要で、前半から左に対する子供たちの傍若無人な振る舞いには、得たいの知れない怖さがあるが、終盤にエスカレートするその暴力は、作為的過ぎるようにも感じられるが、かなり衝撃的な見せ方なのだ。

 そして本作も圧倒的に左幸子という女優の魅力を楽しむべき映画と云っていいだろう。主婦役でもまだまだ可愛い。彼女が岡田にベタベタする場面は、少々違和感もあるが、底知れない疎外感の対比として効果のある描写でもある。岡田は怒っていたと思ったら、次の場面では軟化していたりと分裂気味の造型と思うし、もう一人のタイトルロールと云っていいイコナ役の山下については、素人役者なので科白の拙さは仕方がないとは思うが、不必要にニヤケているように見えるショットも多く、これはディレクションの責任ではないかと思った。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・牛乳屋さんで風船を配るお兄さんは蜷川幸雄。クリーニング屋は長谷川明男。2人とも筋には全く絡まない(絡みそうなのに)。

・団地の婦人たちの中に、木村俊恵堀越節子がいる。花子を診る医者は穂積隆信。入院先の看護師で市田ひろみ

・クレジットにある桑山正一小栗一也は、どこに出ているか分からなかった。

・団地の最寄り駅は百合ヶ丘駅。イコナの科白で「運河はいいね。また砂町へ行ってみよう。」というのがある。終盤に「部落の人たち、ずいぶん立川の方へ行ったらしい」という左の科白あり。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。