[コメント] 怪談(1964/日)
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世界に誇る日本文学の一つ、小泉八雲の「怪談」を日本人の手で映画化。オムニバスの強みで、オールスターキャストに、総天然色を用いると言った意欲作。カンヌ国際映画賞で特別賞も受賞した(米アカデミーでも外国語映画にノミネート)。邦画の実力を見せた作品であったが、それだけ力が入っていたのに、国内ではさほど評判にならず、1964年邦画興行成績では8位に留まった(ちなみに当初の予算1億円を大幅な予算オーバーで3億1千万円となり、配集が2億2千万円と製作費に追いつかなかった)。
怪談と言ったら小学校の図書館には必ず置いてあるメジャー作品だし、私の子供時代には教科書でも紹介されてた記憶がある。それで物語の質がそれほど高いのか?と言われると、決してそうではないと思う。日本文学として見るなら、稚拙なところばかりだ…尤も、それは仕方ない話で、この「怪談」の読者は日本人じゃなかったためである。海外に日本を紹介するのがその意図だったから。物語そのものよりも日本の紹介記事として、そして文化人類学的な作品として読むのが正しい。古来日本には怪談話が後を絶たず、今も尚新しい形で毎年怪談が作られているが、いわば「流行りもの」だし、ローカル色も多いので文学的には当然ながら低く見られる。しかし、この作品のお陰で、系統だった怪談話が作られるようになり、「雪女」や「むじな」と言った話は全部これがベースとなっていった。日本文学における大切な分岐点に当たる作品でもある。
当時においては世界で最も知られた日本の作品だった。だから最初からこの作品は国内向けよりも海外を視野において作られたらしい。
それでもかなりの冒険と言える本作を製作したのは大手企業ではなく、映画製作会社でもない。女優の有馬稲子、岸恵子、久我美子の3人が中心となって1954年に設立された文芸プロダクション「にんじんくらぶ」によるもの。時代を先取りするのは、近年においては女性の方が多い。やはりこれは女性ならではの冒険だったのだろう(ただし、にんじんくらぶはこの負債のため、1966年に解散となってしまう)。
本作の面白いところは「怪談」と銘打っている割に、怖くない。むしろ何というか、とても“妖しさ”に溢れた作品だと言えよう。怖い演出を意識的に避け、耽美的な面を強調した本作の作りは決して悪くない。少なくとも際物としてのみ作られる怪談話を、ちゃんと文学的に作り上げたと言う点で監督には賛辞を送りたい(世界配信というのはこう言うところだ)。
考えてみると、ホラーというのは、色気があってこそ、映えるんだよな。海外で吸血鬼ものが乱発されるのは、結局はその点にあるのだし、そこから派生して、恍惚とした表情で人間を食うシーンとかが出てくるリビングデッドものだって、やはり色気が存在していた。単純に性交を見せるのではない、耽美的な演出として。その意味では本作は最もホラーとして正しい方法を用いたのかも知れない。特に「黒髪」「雪女」なんかはぞくっとする色気が演出できてたしね(ちなみにカンヌでは長すぎるとの理由から「雪女」はカットされてしまった)。
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