[コメント] 他人の顔(1966/日)
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この作品、『砂の女』と『燃えつきた地図』と併せて「失踪三部作」と呼ばれているそうですね。私は、アルモドバル『私が、生きる肌』とキム・ギドク『絶対の愛』と併せて「他人の顔映画三部作」だと思うんですけどね。あー、ジョン・ウー『フェイス/オフ』もあるな。でもあれは「自分の顔」か。
『砂の女』でも書きましたが、『おとし穴』も含め安部公房&勅使河原宏4作品は全部「人が消える」話なんですよね。1960年代の日本は失踪者が多かった。松本清張も失踪物が多いし、テレビでも70年代くらいまで「人探し」番組をやってましたしね。ちなみに今村昌平『人間蒸発』は狂ってて面白かったな。二度と観たくないけど。もしかすると60年代日本の「高度成長」は「失踪(蒸発)」と表裏一体、「光と影」のようなものだったのかもしれません。
そして安部公房と勅使河原宏は、「失踪」の先に「人間としての存在証明」を描いているような気がします。中でも本作は顕著で、「人は見た目が〇割」なんて生易しい次元ではなく、顔がアイデンティティーそのものだという哲学的命題を突きつけてきます。これは自己同一性とは何かと問いかける物語なのです。そういった意味では、押井守『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』と同系統と言ってもいい。
仲代達矢と平行して、顔の半分が焼けただれたような痣になっている美女の話が進行します。Wikipediaによれば「ケロイドの女」という役名で、入江美樹という女優さんだそうです。だそうですじゃねーよ、小澤征爾の奥さんじゃねーか。小澤征悦の母ちゃんだ。一度だけお見かけしたことあるけど、メチャクチャ綺麗なお婆さん(<失礼)でした。
それはさておき、私はこの「顔半分美女」の話が興味深かったんです。「お兄ちゃん、長崎の海を覚えてる?」といった台詞があります。おそらく彼女は長崎出身なのでしょう。二十歳前後の年齢からして、赤ん坊の頃に被爆したのかもしれません。彼女が下働きする病院では、空襲に怯える精神病患者が描かれます。そしてこの兄妹は、戦争が再び始まることを待ち望んでいるようです。意外に戦争色が濃い。そして「対」の構造になっているような気がします。
「他人の顔で生きようとする男」と「自分らしさを保ったまま死のうとする女」。夫婦、兄妹、ついでに言えば医者と看護婦といった「男と女」の関係。そして「平和と戦争」。高度成長の「光と影」。その象徴が陰と陽を併せ持った「半分美女」(<小泉今日子の曲ではない)の顔。
(2022.12.03 CS録画にて鑑賞)
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