[コメント] 捕らえられた伍長(1961/仏)
例えば、シュトロハイムのような民族や階級意識に思いを馳せさせる人物は登場しない。あるいは、本作のタイトルロール−伍長−ジャン=ピエール・カッセルをジャン・ギャバンと比較するのは止した方がいいと思う。
開巻は記録映像。パリ占領の場面など、ナチスドイツの動向を伝えるニュースリールと思われるが、これが劇中何度か挿入されて、時の経過を現す。雨の中、収容所に運ばれてくる捕虜たち。雨宿りのための小さなテントが沢山点在する。この冒頭は3人の戦友が再会する場面だ。伍長−カッセルと、パパ−クロード・ブラッスールとバロシェ−クロード・リッシュ。本作はこの3人の友情の物語。再会したその夜、3人はもう脱走を試みるが、それは思いつきのような無計画なもので、当然ながらすぐに捕まってしまう。こゝから、3人の、いや、とりわけ伍長−カッセルの、何度失敗しても諦めずに脱走しようとする姿が描かれる。
というワケで、こういったプロット展開だから、当然のように、いくつかの繰り返し(変奏されて)描かれる場面・演出が面白い見せ場を作る。例えば、脱走する際のドイツ兵(衛兵)の騙し方、脱走後の衣服の準備調達、あるいは、列車内で身分証を確認される場面での逃れ方、また、列車から駅の外へ(自由地帯へ)逃亡する手立て、そして、捕えられて、懲罰を受ける伍長の反復。
そんな中で、特筆すべき良いシーンとして、バロシェが一人で脱走するシーンをあげたい。収容所の建屋から出た後の、秒数を数える仲間たち。オフ(画面外)の音の効果を徹底的に意識させる伍長−カッセルへのドリー寄りの演出。他にも、これも繰り返される、伍長が歯痛で町の歯科医院へ連れて行かれる場面(歯痛を訴えれば、歯科医院へ連行されるのだ)。歯医者の助手(歯医者の娘?)エリカと伍長とのツーショットは、初回からいい雰囲気で、2回目では完全に魅かれ合っていると分かる。そして、終盤の脱走シーンにおける、燃える列車から走って逃げるロングショットの造型も圧巻だ。その前の列車内のシーンで酔っぱらった年寄りのドイツ人としてO・E・ハッセが登場する。この人の傍若無人ぶりから始まり、空襲も加わってのカオスの演出も素晴らしい。やっぱりルノワールの遺作も、実に見応えのある作品だ。
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