[コメント] 日本の青春(1968/日)
このインタビューで、家族構成(妻と息子と娘)、結婚20年といった藤田の状況が分かる。しかし、ズーミングの寄り引きが頻繁に行われるので鬱陶しい画面だ。
藤田は渋谷の特許事務所の所長(弁理士なのだろう)。50歳前という設定だが、右耳に補聴器をつけており、随分と老けた役作りだ。妻は奈良岡朋子、息子は浪人生の黒沢年男、娘は高校生で菊容子。彼の現在の状況と、回想による戦時中の時代が交錯して描かれる。回想は、まずは唐突に神宮の学徒出陣壮行会。当時のフィルムに、雨の中行進する藤田と田中邦衛のアップカットが上手く繋がれる。続いて下宿先の娘よっちゃん、新珠三千代とのやりとり。焼き芋を3人で食べる。先に田中に入営の通知が届くが、藤田にもいつ赤紙が届いてもおかしくない状況だ。藤田は、名古屋空襲の予告ビラを見て、ワザと名古屋で空襲に合い、死んだことにする、と云う。新珠は、藤田に抱きつき、接吻する。
現代のシーンでは、藤田の息子、黒沢年男も出番が多く、代々木ゼミで知り合った酒井和歌子との交際や、詳述は割愛するが、進学先として興味を持った防衛大学の見学シーンなども描かれる。酒井和歌子の、彼女らしいキッパリした性格と口調がいい。とても清涼効果がある。
また、藤田は、バーのマダムになった新珠と再会し、彼女の死別した夫の残した、発明について相談を受ける。この発明ノートを持って、売り込みに行った先、横浜根岸の工場で登場するのが、佐藤慶だ。いきなり睨みつける藤田まこと。ちょっと、この演出は生硬であざとい感じがする。佐藤は、戦争中の藤田の上官で、彼の耳が聞こえなくなった(左は全く聞こえず、右は補聴器が必要になった)のは、佐藤に殴られたからなのだ。この再会場面、工場の会議室という設定だが、軍事基地のような雰囲気で、佐藤は秘密結社のような制服を着ているのが面白い。戦時中の場面、アメリカ兵捕虜に対する制裁命令に従わなかった藤田が佐藤に殴られる顛末も回想で挿入されるが、けっこう大掛かりなシーンになっている。
さらに、酒井和歌子は佐藤慶の娘だった、という世間は狭い攻撃があり、藤田の過去のいきさつも知った黒沢と酒井が、根岸の工場に乗り込み、佐藤と対決するのだ。こゝは、若い黒沢がはっきりと云いたいことを云うので、なかなか感動的なのだ。この後の横浜港をバックにした、黒沢と酒井の場面がことさら美しく見える。
さて、終盤は、新珠美千代の持つ発明と、新珠本人!をめぐって佐藤と藤田のどちらが勝利するか、という事柄に焦点があたる。他にも、技術の軍事利用だとか、いつの世も勝ち組はどんなやつか、とか書くべき論点はいろいろあるのだろうが、どうにも、藤田と新珠の二人の描写は、ぐずぐずして煮え切らないように描かれている。そういう主旨なのだろう。どちらがいいとかではないが、黒沢と酒井の二人については、悩みはあっても行動は明朗明解で、今後に希望を持たせる描き方だと思った。
尚、藤田と新珠のシーンでは、藤田が近所の火事騒ぎに動転して、新珠のアパートへ押しかけるシーン。こゝのナレーションと新珠の科白による「弱虫」の連打の演出はいいですね。あと、名古屋駅近くの跨線橋の上で、なぜか二人が汽車の煙を浴びながら会話する。このとってつけたような奇矯さは、面白いと思った。
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