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[コメント] デッドマン・ウォーキング(1995/米)

死刑囚も人である。ただ生きる権利を失った人間にすぎない。
Bunge

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







大衆は残虐だ。古代ローマ市民の鬱憤はコロシアムにおける殺戮によって解消されたし、約半世紀ほど前まで存在した見世物小屋は繁盛していた。一握りの賢人による啓蒙と、比較的無害な娯楽の発達によって築かれた近代社会に漠然と産み落とされたに過ぎない大衆の本質は「エレファントマン」を好奇の目で見ていた時代と何も変わらない。

シスターと会って間もない頃に死刑囚は言った。 「あんたは説教もしないし、したり顔もしない」 たったこれだけの事がどれだけアウトサイダーの心を救い、勇気と誠実を呼び起こすのに役立つことか。彼らはメディアによって「唾を吐きかけても良い」というお墨付きを与えられた存在であり、コロシアムの勝者に与えられた誇りなど望むべくも無い「大量消費物」としての役割が振られる。

死ぬまで加害者を侮辱し続けた宅間守を憎み続ける人生と、シスターに救われた「彼」の最期の顔を見た後の人生を比較して考えれば、今作の存在意義は明らかだ。

ただしこの映画の影響はもちろん、現代における聖職者の影響はごく小さいものでしかないのかもしれない。そこに折り合いをつけ歯軋りをしながら生きるシスターもいれば、重く背負いすぎた罪に耐え切れなくなった「エクソシスト」のような生き方もある。どちらにせよ描く価値のあるものには変わりない。簡単な見方をすれば良いのだ。この作品の「主人公はシスターである」というごく基本的なことを意識するだけなのだ。

そしてこれだけの高評価をつけた理由は「凝った演出をしていない」のと「あらゆる登場人物の心理描写がリアル」であること。それが出来ない「感動もの」の何と多いことか。

2012/03/11

(評価:★4)

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