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[コメント] 橋のない川(一部・二部)(1969/日)

一部は『キクとイサム』『にっぽんのお婆あちゃん』と並ぶ北林谷栄の傑作、二部は突撃米騒動の伊藤雄之助の傑作。アクションで語る今井、最後の輝き。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







消防団の操法大会とか荒れる平等社大会とか。再現美術で良かったのはあの井戸汲みの木製ポンプ。あんな仕掛けが本当にあったのだろうか。

一部は陽気な学校生活の断片で繋ぎつつ、手を握ったのは「夜になると蛇のように冷たくなるのではないか」確かめたの件と、修学旅行の夜中に同室者がいなくなる件に至る。このふたつはとりわけ残酷で血が逆流する。

二部の主役は伊藤雄之助で、もうアル中なんだろういつもに増してど派手(一部の息子に曳かせた大八車に寝そべる鈍ら振りとか、お山に売る原田あけみとの哀しくも陽気な行楽など印象に残る)。米騒動と関連する歴史はマイナーで国忠会の対決に至るまで興味深い。

最も心に残ったのは北林谷栄の、喧嘩した理由を云わない息子への抗弁(エタと自分の口から云うのがどれほど苦痛か、という)。先生の前であんなに颯爽としていた彼女が、地主の前で卑屈になる悔しさよ。塩崎純男のアタマにくるアホ先生の造形が素晴らしい。当時は同和に集中していたいじめが、同和問題の一定の進展に伴って、いまは対象が拡散しているという感想を持った。加害者は構造的に発生する。不断の努力が欠かせない状態は変わっていないのだと思う。

Wikiによれば第三部は解同と全解連のいざこざで果たされずに二部に折りたたまれたらしく、終盤の駆け足はいかにも残念。長山藍子がDVDの付録で語っていらした通り、邦画全盛期に撮られた最後の今井映画なのだろう。モノクロがとても充実している。

(評価:★5)

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