コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 男はつらいよ 寅次郎春の夢(1979/日)

寅さんとはどういう物語であるのか、脈々と築かれてきたところに、外人版寅さんの登場で“どういう物語ではないのか”がくっきり示された印象。
G31

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 マドンナは香川京子さん(当時48才)。好きな女優さんですが、本作ではイマイチ魅力を感じません。夫を交通事故で亡くして3年で、もう別に好きな男(この人、博の兄さんですよね、岡山に住む)がいるとは、やや尻が軽い印象です。彼女に宛てて用意された役柄ではなかったのじゃないかと思います。

 第1作以来、久々に倍賞さん(当時38才)が準マドンナ役。男性から告白されます。SKD宣伝篇でも披露されなかった彼女の本格的な歌唱が聞けるなど、倍賞ファンには嬉しいサービス・シーケンスもあります(大空小百合の歌が突然上手くなるので驚きました)。でも、この告白は唐突というか展開が無理筋のように思いました。アメリカ人は思いを率直に口にするものだという丁寧な前フリはありましたし、さくらは夫の博から愛されてないとマイケル(ハーブ・エデルマン、当時46才。老けてんな!)が思い込んだということみたいですが。

 ただ、アメリカ人だろうがなんだろうが、好きな人に、好きだという気持ちを言葉にして直接伝える、この行為自体は力強く肯定してやる。これはいかにも寅らしい優しさだなあと思わされました。自分じゃ相変わらず告白しないのですけどね(ちなみに渥美清は当時51才)。まあ、なんと言うか、着地が見事だったという感じです。全体として、流れもスムーズで、笑いもふんだんだったと思います。

 林寛子さんが当時20才。満男の通う英会話教室の先生という設定には、ちょっと若すぎかな。溌剌としてお綺麗ながら、ほとんど話に絡みませんでした。

80/100(19/3/30見)

 冒頭のエピソード。とらやに大量のブドウが届く。そこへ久々に帰ってきた寅のお土産がまたブドウ。そこら辺の安いやつ。このパターン、鯉幟でもあったし、ピアノも似たパターンだった。またかという感じではある。だかまあ、寅がどう反応するか、とらやの面々が寅をどう扱うか(なだめすかすのか、なじるのか)、といった緊張感が走るのも確かだ。山田洋次は、フーテンの遊び人と堅気の市井人との間の意識のすれ違いを描くのに、これが適当なモチーフだと確信犯的にやっているのか。

 さて、この場合は大抵、最後のダメ押しは、裏口から無神経にとらやに入ってきたタコ社長が与える。今回もそう。だが、民家で飼われてた虎が逃げ出したてな新聞記事をがなり立て、とらや面々の制止も聞かずに「ああそうか。このウチにも放し飼いのトラがいたねえ。どう猛なのが」てえのは、やり過ぎ感が強い(いつもやり過ぎではあるが)。山田洋次の演出が、やや強引というか、緩いと思う。

 マドンナなんて最後には寅を振る女なんだから、綺麗に描かなきゃ罪だ。香川京子さんは表情の良い女優さんなんだよ、顔の造りがどうこうと言うよりは。犬塚弘の棟梁に、ここの仕事なんざ手抜きでいいみたいに言われ、ニコッと笑みを作って下を向く姿なんて美しかった。それを、亭主亡くして3年なのに男を家に上げてシャワー使わしてやる女に描いちゃアカンでしょう。僕なんかには寅の方から初めて熱が冷めた相手にみえた。これじゃ男がつらい話にならん。まあ、最後はさくらに振られたマイケル(ハーブ・エデルマン)に同情する寅の優しさを描いて帳尻を合わせていたけれど。

 マイケルのさくらへの告白も、ピンカートンに成りきって勇んで関西から帰ってきた筈なのに、コソコソと2階に上がってしまい、さぞ疲れたろうと情けをかけたさくらの不意をついてボソリと試すかのように言うなんてのはいただけない。堂々としてないよ。

 ピンカートンに成りきったマイケルに抱きすくめられた殿山泰司が、なぜか少しその気になってるとこは面白かった。

20/9/12再見

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。