[コメント] 男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花(1980/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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今回見たのは、一応、「49作目」として数えられる、「ハイビスカスの花 特別篇」という代物。冒頭、満男パートと、松岡リリー(浅丘ルリ子)1、2回目のハイライトが付加される。中間は、ほぼ原作ままか。ラストに再び満男パートで挟む形。前作(48作目)から2年後ぐらいが経過。
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渥美清が亡くなった後に公開された作品なのだと思うとこみ上げるものがある。だが、晩年の数作を観た後にあらためて見直すので、役者陣が皆さん若く、作品に活気があって嬉しい。飛び交う台詞のテンポが速いし、体の動きも敏捷。加えて、1、2カット挟んで場面を展開するなどの山田の演出術も頗る快調だ。ショボい演出も散見されるが、ここ数作はショボいのばかりになってしまったのだと気づかされた。彼らの甚だしい老け込みが、まだそうでなかった頃まで、本シリーズはやはり日本映画の名シリーズと再確認できた。
リリーに寅との関係を質す江藤潤が、テーブルの下で固く握り締めていた手をフッと緩めるとか、本シリーズほぼ唯一の寅の“告白”が空振りに終る様を、息を呑んで見つめるさくらと博が意気消沈する様子とか、演出のこういう部分がしんみり味わえる。
寅は、自身の不得手な男女の領域に女性から踏み込まれると、後ろに退いてしまうのだが、リリーにも、そういうところがあるのかな。でなければ、なんでとらや(←当時はこうだった)に来たのだろう。そういう意味でも二人は似た者同士だったのかもしれない。リリーにはそれを自覚的に行える頭の良さが(さくらの言う通り)あり、寅は無自覚との違いはあるが。
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撮り足し箇所について。
・八代亜紀の歌う主題歌は、微妙。上手いんだけど、上手さは求めてないよ、みたいな。渥美さんの味わいに及ぶべくもない。
・駅のホームでの寅さんCG再現シーンも、いまやリアルには見えない。満男の白昼夢だからまいっか。
・満男はまだ真面目にサラリーマンやってる。生気のないのがやや気になる。
・寅は、特に理由もなく、音信不通が異例に長く続いているという設定の模様。独白する満男から深刻さは感じ取れないが、心の底では「もしかしたら」と思っていないとおかしい。まあ、いずれにしても無理な設定ではある。
・満男と泉は、結婚まで至らなかったどころか、付き合いすら途絶えた模様。これも、前作の流れからは不自然。
・こんな回想形式の安易な作品を、もし好評だったら、もう何作か作ろうとしてたっぽい。なかったが。
・結論的に言うと、年末に公開予定の次作(第50作)にあまり期待はできなさそう。
(19/9/21見、review追記)
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